◼️「ナイル殺人事件/Death On The Nile」(2022年・アメリカ)
監督=ケネス・ブラナー
主演=ケネス・ブラナー アーミー・ハマー ガル・ガドット レティーシャ・ライト
待ちかねたぞ。アガサ・クリスティ生誕130年で公開されるはずが、度重なる公開延期で2022年公開となった「ナイル殺人事件」。ケネス・ブラナーによる前作「オリエント急行殺人事件」のラストで、「エジプトにお連れしないといけません」とのひと言があったから、当然の流れ(?)で「ナイルに死す」の映画化である。ピーター・ユスティノフ主演の1978年版、テレビシリーズの「ナイルに死す」回を観た上での鑑賞である。「私の人生をも変えた事件」とポアロが語るエピソード。単なる名探偵としての活躍だけでなく、ポアロ自身についても触れられるのは面白い。
ストーリーの基軸となる三角関係を冒頭示すのかと予想していた。今回のブラナー版は、まず原作には登場しない第一次世界大戦でのベルギーの戦地が舞台となる。若きポアロの機転で作戦が成功するが、救えた人を救えなかった苦い経験と傷という代償が。当時の恋人が顔に負った傷を隠すために口ひげを生やすことを提案する。ここまでがプレタイトル。「オリエント急行」でポアロの口ひげが大き過ぎるとは思っていた。パタリロ が変装する犯罪学の権威マンテル教授並の大きさ(例えが悪い😝)だけど、こういう理由があったのか、なるほど。このパートは蛇足ではなく、映画を最後まで観ると、単なる謎解きミステリー映画とするのではなく、過去の作品がやっていないポアロの人物像に迫ろうとする試みとなっているのがわかる。
そして大富豪の娘リネットを中心とする登場人物の提示。前作から引き続き登場するブークとの関係を示す必要もあるけれど、原作や他の映像化作品を知る人には、乗船までのシーンが冗長に感じた方もあったのでは。
ケネス・ブラナーのポアロは、テレビシリーズのような茶目っ気もなく、実績と自信、プライドを誇示する生真面目な探偵のイメージ。ニコリともせずに事件に向き合う姿は本作でも健在で、クライマックス近くブークを詰問するシーンでは、友人を問い詰めなければならない苦しさを感じながらも、答えを求めて攻め続ける。
ラストで「あんたの仕事は見たくなかったわ」と言われるひと言が厳しい。それは真実を突き止めるカッコよさではなく、生々しい愛憎劇とその背景を明らかにすること。それはポアロも含めて関係者にとっては知りたくもなかったことのはず。いくつかの死体と共にクルーズを終えるこの物語。他の作品では事件もあったけど、素敵な出会いもあったんですのよ的な笑顔になれる部分もあった。しかしブラナー版は徹底して生真面目。
クリスティ映画の音楽に、黒人歌手のブルースが流れるのも珍しい気がする。「地中海殺人事件」のコール・ポーターや、「ナイル殺人事件」のニーノ・ロータのイメージが強いので印象的。これだけ全編にリズムアンドブルースを流したのは、人生のほろ苦さを表現したかったからだろう。テレビシリーズのこの回でも、「愛は私に欠けているものです」とポワロはつぶやく。「ナイルに死す」はスカッとするミステリーではない。ビターな人間ドラマなのだ。
ストーリーの基軸となる三角関係を冒頭示すのかと予想していた。今回のブラナー版は、まず原作には登場しない第一次世界大戦でのベルギーの戦地が舞台となる。若きポアロの機転で作戦が成功するが、救えた人を救えなかった苦い経験と傷という代償が。当時の恋人が顔に負った傷を隠すために口ひげを生やすことを提案する。ここまでがプレタイトル。「オリエント急行」でポアロの口ひげが大き過ぎるとは思っていた。パタリロ が変装する犯罪学の権威マンテル教授並の大きさ(例えが悪い😝)だけど、こういう理由があったのか、なるほど。このパートは蛇足ではなく、映画を最後まで観ると、単なる謎解きミステリー映画とするのではなく、過去の作品がやっていないポアロの人物像に迫ろうとする試みとなっているのがわかる。
そして大富豪の娘リネットを中心とする登場人物の提示。前作から引き続き登場するブークとの関係を示す必要もあるけれど、原作や他の映像化作品を知る人には、乗船までのシーンが冗長に感じた方もあったのでは。
ケネス・ブラナーのポアロは、テレビシリーズのような茶目っ気もなく、実績と自信、プライドを誇示する生真面目な探偵のイメージ。ニコリともせずに事件に向き合う姿は本作でも健在で、クライマックス近くブークを詰問するシーンでは、友人を問い詰めなければならない苦しさを感じながらも、答えを求めて攻め続ける。
ラストで「あんたの仕事は見たくなかったわ」と言われるひと言が厳しい。それは真実を突き止めるカッコよさではなく、生々しい愛憎劇とその背景を明らかにすること。それはポアロも含めて関係者にとっては知りたくもなかったことのはず。いくつかの死体と共にクルーズを終えるこの物語。他の作品では事件もあったけど、素敵な出会いもあったんですのよ的な笑顔になれる部分もあった。しかしブラナー版は徹底して生真面目。
クリスティ映画の音楽に、黒人歌手のブルースが流れるのも珍しい気がする。「地中海殺人事件」のコール・ポーターや、「ナイル殺人事件」のニーノ・ロータのイメージが強いので印象的。これだけ全編にリズムアンドブルースを流したのは、人生のほろ苦さを表現したかったからだろう。テレビシリーズのこの回でも、「愛は私に欠けているものです」とポワロはつぶやく。「ナイルに死す」はスカッとするミステリーではない。ビターな人間ドラマなのだ。