◼️「晩春」(1949年・日本)
監督=小津安二郎
主演=笠智衆 原節子 月丘夢路 杉村春子
小津安二郎監督作を実はあんまり観ていない。友達に聞いたら「まずはこれやろ」と勧めてくれたのが、この「晩春」である。いわゆる紀子三部作と呼ばれる最初の作品(こういう知識だけはある・恥)で、父娘ものの傑作とされる映画。挑んでみた。
戦争終結からまだそれ程経ってない頃の鎌倉が舞台。嫁にいかない娘を心配する父親と、周囲から出る結婚の話題をかわし続けてきた娘。彼女が結婚に踏み切るまでの物語。これだけ親族や友人から結婚結婚、結婚結婚と言われたらウンザリするだろうな。だか紀子が結婚に気が乗らないのは、父親が心配だから、父親といることに幸せを感じているから。淡々としたタッチで描かれる日常風景から、彼女がいわゆるファザコン?と簡単に読み取ることはいけない。戦時中に娘は健康を害していたような台詞もあったから、きっとこの親子にもいろんなことがあったんだろう。
再婚した叔父を「不潔だ」と罵ったり、父親も再婚の話がある?と知ったときの原節子の表情。それまでカメラは真正面から笑顔でよくしゃべる原節子を撮っていたのが、黙って文字通り斜に構えて睨むような目つきに変わる。男性は簡単に(でもないのだろうが)「奥さんをおもらいになる」ことができても、女性は結婚しか選択肢がないような時代。離婚を経験した友人も、紀子の理解者になるどころか、結婚をけしかける。古い映画って、時代の空気を切り取って見せてくれる貴重なもの。当時の男女観、結婚観が感じられる。
笠智衆がなんとか娘にを嫁に出そうと懸命になるのだが、うまく言葉にできない感じが切ない。
「相手の人に会いなさい。行ってくれるね。頼んだよ。」
「幸せになるんだよ。なりなさい。なれるよ。なりなさい。」
いやあとにかく不器用。結婚のいいところを説いて、娘をその気にさせることもできない。いざ結婚が決まって、父親で京都に旅行する場面。
「お父さんといるのが幸せなの。」
と言い出す娘をなんとか諭そうとする言葉。突き放しているようで、無理をしてるのがひしひしと伝わる。笠智衆お父さんの年齢に近付きつつある僕だけに、男親って結局これくらいしか言えないんだろうな、とも思えてしまった。結婚前の娘に穏やかに冷静に話ができる人なんて、しずかちゃんのお父さんくらいなんじゃないのかな(「のび太の結婚前夜」)。一人黙ってりんごの皮を剥くラスト。その無言の寂しさが心に残る。
あー、鎌倉に行きたい。
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