図書館から借りていた 葉室麟著 「蒼天見ゆ」(そうてんみゆ)」(角川書店)を、読み終えた。先日、葉室麟著 「秋月記」を読んだが、本書は、その続編とも言える作品である。同じく、九州の小藩、秋月藩の史実を基にした長編時代小説であり、「秋月記」から継承した作品になっているが、時代は、開国、攘夷に揺れる幕末から明治への大転換期に変わっている。武士の世の終わりが告げられた後、時代にあらがい、信念を貫いた、最後の武士の生き様が描かれている。
▢主な登場人物
臼井亘理(わたり)・清(きよ)、六郎(主人公)・いゑ、つゆ、
文(ふみ)、
黒田長徳、間余楽斎、原菜蘋(猷・みち、霞窓)
吉田悟助、海賀宮門、戸原卯橘、中島衡平、
山岡鉄舟・英子、勝海舟、西郷隆盛、大隈重信、犬養毅、大久保利通、森鴎外、
江藤新平、星亨、伊庭想太郎、
一瀬直久(山本克巳)、萩谷静夫(伝之助)
鵜沼不見人、
▢あらすじ等
日本中が開国か攘夷かに揺れる時世に、西洋式兵術の導入を進めていた秋月藩執政・臼井亘理は、ある夜、尊攘派により妻清もろとも斬殺されてしまうが、藩の裁きは臼井家に対し徹底して冷酷なものだった。眼の前で父母を斬殺された息子の六郎は復讐を固く誓うが、世は明治に移り、「仇討禁止令」の発布により、武士の世では美風とされた仇討ちが禁じられてしまう。生き方に迷いながら上京した六郎は、剣客・山岡鉄舟に弟子入りするが・・・。
時代が変われば、生き方も変われるものなのか、周囲から諫められても、六郎の生き様は、一生を、命を、そして武士の矜持を懸けて仇討ちを果たすこと・・・・。
父親亘理の言葉、「青空を見よ。いかなる苦難があろうとも、いずれ、頭上には蒼天が広がる。そのことを忘れるな・・・」
明治13年(1880年)に、日本史上最後の仇討ちを果たした実在の人物臼井六郎を、史実に基づいて描いた、深く胸に突き刺さる作品である。
明治37年2月、日露戦争勃発、
「わたしはいったい何を為したというのだ」、六郎の胸に寂寞の思いがあふれた。
六郎は、東京を離れ、九州へ・・・。下関駅のホームで、妹つゆと再会、九州の上の青空を見つめる六郎の目に涙・・・、
47歳になった六郎、いゑと結婚し、門司駅前で饅頭屋を営み、佐賀県鳥栖へ移り住み、59歳で没している。故郷の秋月の古心寺の墓地には、両親の墓に寄り添うようにして、六郎の墓が建っているという。