映画と本の『たんぽぽ館』

映画と本を味わう『たんぽぽ館』。新旧ジャンルを問わず。さて、今日は何をいただきましょうか? 

イントゥ・ザ・ワイルド

2008年09月21日 | 映画(あ行)

アトランタの大学を卒業した直後、クリスは大学院への学費を寄付し、
IDカードもクレジットカードも焼き捨てて旅に出ます。
目指す最終目的地は北の地、アラスカの荒野。
肩書きもお金もなし。
自分の身一つでどこまでやっていけるのか。
世間並みのいわゆる「正しい道」を拒否。
若者らしい理想を胸に、車さえも捨てて、リュック一つで歩き始める。

これは、クリストファー・マッカンドレスという青年が実際に体験した旅の記録で、
ジョン・クラカワー著「荒野へ」を映画化したもの。
ショーン・ペンがかなりの熱意を持って映画化にこぎつけたようです。

クリスがこのような旅に出た背景には事情があって、
それは両親の不和に起因するようなのですね。
喧嘩が絶えない両親、暴力に及ぶこともある父。
両親の結婚も誰からも祝福されるようなものでなかったことを知るに及んで、
彼は両親に心を閉ざしてしまったかのように思えます。
人とのかかわりに意味がないように思え、
自分の力だけで生きたいと望むようになったのかも知れません。
だから彼は、両親にも妹にも行く先を告げず、不意に旅立ってしまったのです。

けれども、旅は人とのふれあいなんですね。
確かに歩く時は自分の力だけ。
自分の足で歩くのです。
でも時には車に乗せてもらったり、キャンプに加わったり、
何かをおごってもらうこともあるし、畑の仕事を手伝ったりもする。
どこへ行っても、人懐っこく、親身になってくれる人がいるものですね。
アメリカの雄大な自然の中を放浪しつつ、
時にはそういう人たちの暖かな心にに触れながら、
まずはアラスカへ行く旅の前哨戦とでも言いましょうか、そういう旅が長く続きます。

何しろほとんど、自然の中、道路沿いの小さな町、
そういうところを通ってゆきます。
終盤近く、大都会を通るのですが、
そのビルの群れ、無関心に行きかう人々・・・、
なんだか少し、恐怖を感じてしまいました。
彼の長い旅に付き合ううちに、見る者も、自然に同化してしまうのかも知れません。
人とのつながりが自分を支えてくれる、
そういうことがわかりかけてきた、このときに、旅はやめても良かったのかもしれない・・・と、まあ、後にしてみれば思うわけですが・・・。

でも、彼はいよいよ夢を果たすためアラスカに踏み出します。
そこで彼が見るのは雄大ではあるけれども過酷な自然。
果てしない孤独と、飢餓。
彼が語る”Happiness is only real when shared.”という言葉は大変重いです。

ほとんど2時間半に及ぶ長い作品でしたが、ぜんぜん退屈しないで見ました。
そもそも、こういう雄大な自然は好きなんですね。
自分で歩くとなると別ですが・・・。
語りかけるような歌も好きです。

2007年/アメリカ/148分
監督:ショーン・ペン
出演:エミール・ハーシュ、ハル・ホルブルック、キャサリン・キーナー、ウィリアム・ハート
「イントゥ・ザ・ワイルド」公式サイト