映画と本の『たんぽぽ館』

映画と本を味わう『たんぽぽ館』。新旧ジャンルを問わず。さて、今日は何をいただきましょうか? 

落下の王国

2008年09月30日 | 映画(ら行)

世界遺産13箇所、24カ国以上でロケをしたという、
これこそ劇場の大画面(とはいえ、ミニシアターでしたが・・・)で見たい、
美しく雄大な映像満載です。

映画の舞台は1915年。
映画の歴史ではごく初期の時代です。
当然モノクロで、無声。
この映画の創始期に、青年ロイはスタントマンを務めていました。
ところが、汽車から飛び降りてそのまま馬の背にまたがるというシーンで、
失敗して大怪我。
病院のベッドで身動きできません。
おまけに、恋人が主演男優に心変わりして失恋。
自暴自棄の彼は自殺を夢みる。

そんなところに現れたのが、同じ病院に入院中の5歳の少女アレクサンドリア。
彼女はオレンジの木から落ちて怪我。
ギプスで固めて動かせない腕の先に、
いつも大事そうに彼女の宝物が入った箱を持って歩いているのがかわいらしい。
人懐っこい彼女はロイのところに来てお話をせがむのです。
ロイは何とかこの少女をつかって、薬品庫から自殺のための薬を盗み出させようと、
せがまれるままに物語を紡いでゆきます。
その物語の舞台が、この様々な世界遺産などの遺跡であり、
雄大な自然であるわけなんですね。
それぞれほんの1シーンしか出てこないのが、なんだかもったいないです。
もっと、ずーっと眺めていたかった。
そもそも、ああいった風景は
それ自体がいろいろな物語を想像できてしまう力を持っているような気がします。
ゾウが海を泳ぐという幻想的なシーンがあるのですが、
これは特撮でもなんでもなくて、本当に、ゾウは泳ぐのだそうです。
でも一番撮影が大変だったとか。
苦労した甲斐はありますね。

アレクサンドリアは、物語の登場人物に身の回りの人々のイメージを重ねながら、
物語に没頭していきます。
ロイはいいところで話を切って、
この続きを聞きたければ、この薬を持ってくるようにと、
アレクサンドリアにメモを渡します。
記された字は「モルヒネ」。
そもそも、字を読むのもやっとの5歳。
さて、この守備は・・・・。

純真で人を疑うことのない少女の心に、胸が熱くなってきます。
そしてロイも彼女の心に打たれ、次第に生きる力を取り戻してゆく・・・。
鮮明で美しく際立った物語シーンの映像と、
病院内のほの暗いしっとりした映像の対比が面白い。
欲を言えば物語の登場人物たちに、もうちょっと魅力が欲しかった・・・。
風景に負けてました・・・。

2006年/アメリカ/118分
監督・脚本:ターセム
出演:リー・ペイス、ダニエル・カルタジローン、カティンカ・アンタルー、ジャスティン・ワデル