映画と本の『たんぽぽ館』

映画と本を味わう『たんぽぽ館』。新旧ジャンルを問わず。さて、今日は何をいただきましょうか? 

チャイルド44 (上・下)

2009年02月01日 | 本(ミステリ)
チャイルド44 上巻 (新潮文庫)
トム・ロブ スミス
新潮社

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「このミステリーがすごい!」2009年版海外編、第1位となった作品。
読んでみると、なるほど、納得の圧倒的面白さでした。
これがこの著者の処女小説というのは驚きです。


ここには、ある同一人物の犯行と思われる連続殺人事件が描かれています。
それも、子どもばかりが残虐な手口で殺される。
このような設定だけなら、どこにでもありますね。
このストーリーのすごいのは、
それがスターリン体制下のソ連が舞台というところなんです。
この"理想の国”では誰もが平等で、犯罪など存在しないというのが建前。
それなので、もともと国家にとって”不要”とされる知的障害者や
レイプ犯などが容疑者として捕らえられ、
いとも簡単に処刑されて、それで一件落着となってしまう。
この犯行がかなり広範囲の地で起こったため、
その連続性に気づかれないまま、
そのつど適当な犯人がでっち上げられて、
真犯人が野放しになっていたというんですね。
一見荒唐無稽にも思えるこの話は、なんと実話で、
52人もの少年少女の犠牲者が出た、というのが驚き。
この本はこの事件に着想を得て、年代を少しずらして描かれているのです。

そしてまた、ここでの探偵役がなんともユニークですよ。
もともと、国家保安省の敏腕捜査官であるレオ。
ひたすら職務に忠実なことだけを心がけてきたこの非情な男が、
ある罠にはまり、片田舎の民警へ追放される。
そこで、この犯罪の連続性に始めて気がつくのです。
そして、この事件の真犯人を探し出そうとするのですが・・・。

どれも、一応国家の名において処理済の事件なんですよ。
これを掘り起こして、覆そうとすることは、つまり国家への反逆罪にあたるのです。
思わず絶句してしまうこの皮肉な社会の仕組み。
レオは真犯人を追うと共に、
国家保安省つまり彼の元の同僚から、命がけで逃れなければならない。
本当にドキドキ・ハラハラの連続です。

スターリン体制・・・、本を読む限りでは強烈な恐怖政治です。
まるで中世の魔女狩りのように、
少しでも何かの疑いがもたれたら、
捕らえられ、拷問にかけられ、自白を引き出し即処刑。
ソ連崩壊のときに、スターリン像が引き倒される映像がよく流されていましたっけ。
何もそこまでしなくても・・・と実は私は思ったのですが、
実際はこのストーリーほど極端でないにしても、
人々がそうするには、それなりのわけがあったのだなあ・・・と、いまさら思うわけです。
そしてまた、単なるハードボイルドではなく、
このレオとその妻の関係の変化や、
誰もが体制の力を恐れる中でも、徐々にレオの行動への協力者が現れる
・・・など、心が熱くなるシーンもあり、
すばらしく読み応えのある本となっています。

そうそう、肝心の真犯人像というのも、驚きに満ちています。
あまりのみごとさに、読後しばらくぼーっとしてしまいました。

世界中でヒットしているこの本。
ロシアでは発禁だそうです・・・。
リドリー・スコット監督で映画化も決定だそうで。
なんとも楽しみですね!

満足度★★★★★★(←星は五つで満点ではなかったか?)