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心神喪失 上 (ヴィレッジブックス) ジリアン・ホフマン ヴィレッジブックス このアイテムの詳細を見る |
母親と幼い3人の子どもたちの惨殺事件。
容疑者はなんと、その夫にして父親のデヴィッド。
花形検察官リックがその裁判に挑むのですが、
その補佐を務めるジュリアが本作の主人公です。
弁護側が主張するのは、デヴィッドの統合失調症による心神喪失。
さて検察側はそれにどう対処するのか・・・。
統合失調症。
日本でも、殺人事件の裁判などで、よく耳にします。
精神の病ですが、著者の後書きによれば、
およそ全体の1パーセントの人が、この病を発症するという。
意外と多いですね。
そして、また、遺伝的要素がとても大きい病である、と。
したがって、家族の誰かがこの症状を呈したとすれば、
その血を引く自分もやがて発症する確率はとても高い。
その家族を看取るだけでも相当大変なのに、
この精神的苦痛はかなりの打撃です。
さて、この統合失調症にある者の犯した殺人は、
心神喪失状態にあるとして、罪に問われることがない。
しかし、厄介なことに、この病は目で見て確かめることができないのですね。
脳のMRIなどには表れない。
そのため、しばしば罪を逃れるために、統合失調症を装う人が現れる。
その真偽のほどを見極めるのは大変に難しい。
この物語では、ジュリアに過酷な過去を背負わせています。
ジュリアは子どもの頃に両親と兄を亡くしているのですが、
その過去が、この事件に係る彼女に暗い影を投げかけます。
偽装ではなく真に統合失調症で、
本人も家族もずっと苦しんできていたことだったとしたら・・・。
それを裁くことが本当に正しいのだろうか・・・。
検察側にいながら次第に疑問が膨らんでいくジュリア。
終盤の彼女の絶望感には、思わず胸がふさがり、もらい泣きしてしまいました。
この著者の「報復」、「報復ふたたび」とも読んでいますが、
本作ではますます筆がさえているように感じられました。
・・・そして、結局ラストは釈然としないのです!
しかし、目に見えず測ることもできない、
この統合失調症をテーマにしているかぎり、
こういう結末はむしろ当然なのかな、と思えてきます。
その他ラブロマンスもあり、読み応えたっぷりの作品です。
満足度★★★★☆