局の道楽日記

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医師の書いた小説~ 「無痛」を読んでみた

2006-05-31 14:40:53 | 読む
昨日の朝日新聞で 最近医師の小説家としてのデビューが注目されているという記事があった。日本の作家で言うと 古くは森鴎外 北杜夫、渡辺純一 etc その列に加わった強力新人二人と言う事で 紹介されたのが 「チーム・バチスタの栄光」の海堂尊氏 と 「無痛」 の久坂部羊氏であった。
確かに、医療現場って言うのは 日々がドラマであろう。普通の職場ではなかなか見ることができない生の人間の姿が見られると思う。それに大部分が知能指数の高い医師の方々なんであるから 普通の感性があり、表現力があり、何かを主張したいと考えれば 小説を書くってことが自然の欲求として現れることと思う。

ちょうど 弟より「これすごく面白かったよ。姉ちゃんの趣味じゃないかな 読んでみなよ」 と 渡されたのが 「無痛」 である。
確かに最後まで一気に読ませるだけのストーリー性はあった。だけど読み終わった後の漠然とした不満をちょっと書いてみたい。
ちょっと目新しいところでは人を見るだけで症状がわかる天才医師が二人 一人はしょぼい診療所でいわゆる赤ひげ風で一人は大病院の青年院長って設定だが、二人ともどうも魅力にかける。前者はくだびれた中年で後者は停留睾丸からくる性的コンプレックスを隠し、変態が入ったおぼっちゃま なんだが どっちも読者(って私ね)を惹きつける魅力がない。
そして イバラという 痛みを感じない先天性奇形の男。そしてその男が犯す猟奇的殺人の描写。
それに 刑法39条(精神異常者の犯す事件は罪に問われない 思いっきり略)がからんだ話である。

猟奇的でサディスティックな殺人鬼が出てくる小説と言えば、なんといっても 「羊たちの沈黙」であろう。あの小説にはかなり残酷な描写やショッキングな場面が出てくる。そしてかのレクターは残酷、かつ悪人であるが 貴族的で魅力的である。彼の犯す殺人は彼の美学に基づいた必然ということが感じられる。
その後 異常者が主人公となる小説が出てきても 羊たちの沈黙を超えるものには私はお目にかかった事はない。

そして「無痛」も また羊たちの亜流ね~ って思ってしまうのである。
イバラの殺人場面も ただ生理的な嫌悪感を催されるだけ。生体解剖して細かくトイレに死体を捨てていくって趣味が悪いだけで つまんないっす。
なんとなく 「先生(久坂部羊さん) もうちょっと刺激的な場面入れましょうよ。読者にインパクト与えますからね」 とか って編集者に言われて無理やり書かれているような違和感を私は覚えた。発行元幻冬舎だしさ(笑)
後 刑法39条についても 被害者側にたってみたり加害者側にたってみたりで、問題をなげかけているのはわかるのだが んじゃ どうすればいいんだい?って方向性が見えてこない。 確かに一筋縄じゃいかない問題なのであろうけれど。

う~~ん 小説は小説、小説家は小説家であるし、医師の書いたものだからって意識する必要はないのかもしれないんだけどさ、医師が書くって事で私が期待するのはミステリーじゃないのよね。スプラッターでもないのよね。もっと普通でもいいから、せっかく(って言うのも何だが)普通の人が見られない人間の深みや裏を見られる場にいるんだから 普通に書いて しみじみ人間を書ききっていただきたい と思うのであります。
コメント
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