intersection 交錯の途

第78話 冬暁 act.8-side story「陽はまた昇る」
発信履歴からコールして3つめ、応えてくれた。
「オツカレサン宮田、黒木の熱が伝染って入院かね?」
揄うようなテノールに笑いたくなる。
電話相手は調布の七機隊舎からでも新宿の公園が見えるのだろうか?
そう想わされるほど何でも解かってしまう、このアンザイレンパートナーに英二は笑った。
「おつかれさまです、国村さんの推理通りだよ?出先で熱がでたので一晩休ませてください、明日の朝7時には戻ります、」
朝7時に戻れば訓練から間に合うだろう?
それは自分だけの予定じゃない、その相手に電話ごし上司も笑ってくれた。
「はい了解、入院中に悪いけど携帯の電源切るんじゃないよ?黒木は明日も休ませるから宮田は遅刻ナシで戻って下さい、看護師サンにもよろしくね、」
からり指示してくれる声は「初めからそのつもり」が笑ってくれる。
こんなふうに言わないでも解かってくれる信頼は温かい、そして申し訳なくて頭下げた。
「ありがとうございます、いつも無理をすみません、」
本当に、自分は無理ばかり押しつけている。
まだ任官2年目の自分が警部補の上司にワガママを徹す、こんなこと普通は許されない。
自分たちは同齢でザイルパートナー同士、けれどピラミッド体質の警察社会でこんな序列違反は本来無理だ。
だから今も明らかに嘘吐いている外泊申請は無分別で我ながら困って、それでも上司で先輩は大らかに笑ってくれた。
「仕方ないね、アンザイレンパートナーに熱こじらされると厄介だからさ?きっちり一晩でナントカしてきな、イイね英二?」
軽やかなトーン笑ってくれる言葉は温もり篤い。
この篤実は自分の向こうも見つめている、その想いに笑いかけた。
「ありがとな、光一。ちゃんと治して戻るよ、」
「よろしくね、じゃ、また明日、」
また明日、こんな日常の台詞に笑って通話を終えてくれる。
その厚意とふりむいた雪の公園、携帯電話ポケットに仕舞うダッフルコート姿へ笑いかけた。
「周太、電話終わった?」
笑いかけた雪の森、ライトグレーのダッフルコートが振り返る。
くせっ毛やわらかな黒髪ゆれて振り向かす、その顔に心臓が軋んだ。
―痩せた、周太…体調が、
あらためて見つめた顔が細い。
元から華奢なところがある、けれどこんなに顎のライン細くなかった。
それでも顔色は悪くない、眼差しも穏やかに澄んで変わらない瞳が微笑んだ。
「ん、終ったよ…公園出よう?」
声も変らない笑顔は温かい、でも少しだけ変わった。
この違い何に起因するのか今は考えたくない、ただ幸せだけに歩み寄った。
「周太、出たらどこ行きたい?」
名前を呼んで笑いかけてダッフルコートの手を繋ぐ。
指くるんだ手は相変わらず少し小さくて、けれど少しだけ節太くなった。
いくらか逞しくなっている、その理由ごと繋いだ手をコートのポケットにしまいこんだ。
「…あ、」
ポケットの手に小さな声がため息吐く。
くるんだ掌そっと力こめながら温もりに笑いかけた。
「周太こそ手が冷えてるよ、まだ雪残ってるし寒いもんな?」
この冷え方は緊張の所為だろう?
そう解かるけれど今は知らんふりしていたい、だって普通の幸せが今欲しい。
きっと今夜は現実から知らんふり出来るはずもなくて、だからこそ今ひと時の幸せに隣も微笑んだ。
「ん…寒いね?寒いなか待たせてごめんね、英二、」
「雪の寒いのは好きだよ、」
笑いかけ手を繋いだまま歩きだす。
コートのポケットのなか繋いだ手ゆっくり温まる、この温もり離したくない。
それでも明日の朝には離れてしまう、だから今少しも逃したくない時間に訊いてくれた。
「あの、先週の救助おつかれさま…奥多摩の雪たいへんだったでしょ?」
こんな会話は久しぶりだな?
この声に訊かれることが唯嬉しい、その想い素直に笑いかけた。
「真白で綺麗だった、周太に見せたかったよ?」
「ん…てれびで見てました、美代さんにも聴いたけど、」
答えてくれる声なんだか羞んでいる。
何を恥ずかしがっているのだろう?すこし考えて尋ねた。
「周太、積雪量を美代さんに聴いてくれるなんてさ、そんなに俺のこと気にしてくれてた?」
だったら嬉しいな?
そんな願望と笑いかけた隣、黒目がちの瞳がそっぽ向いた。
「…しりません、そんなことより公園でたらどこいくの?」
そんなことより、なんて冷たいよ周太?
気にしてくれてるのか自分には大事で「そんなこと」なんて言えない。
けれど言ってくれる横顔に傷ついたことすら嬉しくてポケットの手握り笑った。
「周太のリクエスト無いなら俺の行きたいとこ行くけど、周太?」
「…ん、なに?」
まだ瞳そっぽ向いたまま、だけど相槌してくれる。
こういう感じは懐かしい、その記憶に笑いかけた。
「オールで呑むか?」
この台詞は1年3ヶ月前も笑いかけた、そしてあの夜を選んだ。
このこと君も憶えてくれている?そうあってほしい願いに続けた。
「大学の時にさ、サークルやコンパで終電逃すと仲間と朝まで呑んだんだ。ビジネスホテルに泊まって呑むんだけど、そこでいい?」
あのとき夏の終わりだった、あれから二度目の冬だ。
もう季節ひとめぐり半してしまった、それでも自分はあの日を忘れられない。
そして君も憶えていてくれるなら?そんな願いに黒目がちの瞳は穏やかに笑ってくれた。
「いいよ、ゆっくり話せるの今夜の後いつかわからないし…任せるから、」
ほら、あの日と同じ言葉が還ってくる。
『いいよ…呑むんだろ、朝まで。ゆっくり話す時間、今夜の後はいつか解らないし。場所とか宮田に任せるから』
ぼそりと答えてくれた、あの声も貌も忘れるわけがない。
少しぶっきらぼうで恥ずかしそうだった、けれど今は穏やかに笑って見あげてくれる。
あのときと違う声と貌、それでも首すじ染める薄紅色はあの夏の終わりと同じで、そして繋いだ手は温かい。
このまま君と、ずっと。
(to be continued)
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第78話 冬暁 act.8-side story「陽はまた昇る」
発信履歴からコールして3つめ、応えてくれた。
「オツカレサン宮田、黒木の熱が伝染って入院かね?」
揄うようなテノールに笑いたくなる。
電話相手は調布の七機隊舎からでも新宿の公園が見えるのだろうか?
そう想わされるほど何でも解かってしまう、このアンザイレンパートナーに英二は笑った。
「おつかれさまです、国村さんの推理通りだよ?出先で熱がでたので一晩休ませてください、明日の朝7時には戻ります、」
朝7時に戻れば訓練から間に合うだろう?
それは自分だけの予定じゃない、その相手に電話ごし上司も笑ってくれた。
「はい了解、入院中に悪いけど携帯の電源切るんじゃないよ?黒木は明日も休ませるから宮田は遅刻ナシで戻って下さい、看護師サンにもよろしくね、」
からり指示してくれる声は「初めからそのつもり」が笑ってくれる。
こんなふうに言わないでも解かってくれる信頼は温かい、そして申し訳なくて頭下げた。
「ありがとうございます、いつも無理をすみません、」
本当に、自分は無理ばかり押しつけている。
まだ任官2年目の自分が警部補の上司にワガママを徹す、こんなこと普通は許されない。
自分たちは同齢でザイルパートナー同士、けれどピラミッド体質の警察社会でこんな序列違反は本来無理だ。
だから今も明らかに嘘吐いている外泊申請は無分別で我ながら困って、それでも上司で先輩は大らかに笑ってくれた。
「仕方ないね、アンザイレンパートナーに熱こじらされると厄介だからさ?きっちり一晩でナントカしてきな、イイね英二?」
軽やかなトーン笑ってくれる言葉は温もり篤い。
この篤実は自分の向こうも見つめている、その想いに笑いかけた。
「ありがとな、光一。ちゃんと治して戻るよ、」
「よろしくね、じゃ、また明日、」
また明日、こんな日常の台詞に笑って通話を終えてくれる。
その厚意とふりむいた雪の公園、携帯電話ポケットに仕舞うダッフルコート姿へ笑いかけた。
「周太、電話終わった?」
笑いかけた雪の森、ライトグレーのダッフルコートが振り返る。
くせっ毛やわらかな黒髪ゆれて振り向かす、その顔に心臓が軋んだ。
―痩せた、周太…体調が、
あらためて見つめた顔が細い。
元から華奢なところがある、けれどこんなに顎のライン細くなかった。
それでも顔色は悪くない、眼差しも穏やかに澄んで変わらない瞳が微笑んだ。
「ん、終ったよ…公園出よう?」
声も変らない笑顔は温かい、でも少しだけ変わった。
この違い何に起因するのか今は考えたくない、ただ幸せだけに歩み寄った。
「周太、出たらどこ行きたい?」
名前を呼んで笑いかけてダッフルコートの手を繋ぐ。
指くるんだ手は相変わらず少し小さくて、けれど少しだけ節太くなった。
いくらか逞しくなっている、その理由ごと繋いだ手をコートのポケットにしまいこんだ。
「…あ、」
ポケットの手に小さな声がため息吐く。
くるんだ掌そっと力こめながら温もりに笑いかけた。
「周太こそ手が冷えてるよ、まだ雪残ってるし寒いもんな?」
この冷え方は緊張の所為だろう?
そう解かるけれど今は知らんふりしていたい、だって普通の幸せが今欲しい。
きっと今夜は現実から知らんふり出来るはずもなくて、だからこそ今ひと時の幸せに隣も微笑んだ。
「ん…寒いね?寒いなか待たせてごめんね、英二、」
「雪の寒いのは好きだよ、」
笑いかけ手を繋いだまま歩きだす。
コートのポケットのなか繋いだ手ゆっくり温まる、この温もり離したくない。
それでも明日の朝には離れてしまう、だから今少しも逃したくない時間に訊いてくれた。
「あの、先週の救助おつかれさま…奥多摩の雪たいへんだったでしょ?」
こんな会話は久しぶりだな?
この声に訊かれることが唯嬉しい、その想い素直に笑いかけた。
「真白で綺麗だった、周太に見せたかったよ?」
「ん…てれびで見てました、美代さんにも聴いたけど、」
答えてくれる声なんだか羞んでいる。
何を恥ずかしがっているのだろう?すこし考えて尋ねた。
「周太、積雪量を美代さんに聴いてくれるなんてさ、そんなに俺のこと気にしてくれてた?」
だったら嬉しいな?
そんな願望と笑いかけた隣、黒目がちの瞳がそっぽ向いた。
「…しりません、そんなことより公園でたらどこいくの?」
そんなことより、なんて冷たいよ周太?
気にしてくれてるのか自分には大事で「そんなこと」なんて言えない。
けれど言ってくれる横顔に傷ついたことすら嬉しくてポケットの手握り笑った。
「周太のリクエスト無いなら俺の行きたいとこ行くけど、周太?」
「…ん、なに?」
まだ瞳そっぽ向いたまま、だけど相槌してくれる。
こういう感じは懐かしい、その記憶に笑いかけた。
「オールで呑むか?」
この台詞は1年3ヶ月前も笑いかけた、そしてあの夜を選んだ。
このこと君も憶えてくれている?そうあってほしい願いに続けた。
「大学の時にさ、サークルやコンパで終電逃すと仲間と朝まで呑んだんだ。ビジネスホテルに泊まって呑むんだけど、そこでいい?」
あのとき夏の終わりだった、あれから二度目の冬だ。
もう季節ひとめぐり半してしまった、それでも自分はあの日を忘れられない。
そして君も憶えていてくれるなら?そんな願いに黒目がちの瞳は穏やかに笑ってくれた。
「いいよ、ゆっくり話せるの今夜の後いつかわからないし…任せるから、」
ほら、あの日と同じ言葉が還ってくる。
『いいよ…呑むんだろ、朝まで。ゆっくり話す時間、今夜の後はいつか解らないし。場所とか宮田に任せるから』
ぼそりと答えてくれた、あの声も貌も忘れるわけがない。
少しぶっきらぼうで恥ずかしそうだった、けれど今は穏やかに笑って見あげてくれる。
あのときと違う声と貌、それでも首すじ染める薄紅色はあの夏の終わりと同じで、そして繋いだ手は温かい。
このまま君と、ずっと。
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