映画がはじまる。愛と誠とが最初に出会う幼少時代のエピソードがアニメーションで描かれる。
場面が変わって1970年ころの東京の一画。不良達と対峙する太賀誠。
一触即発となったところで、誠が歌い出す。
「やめろと言われても 今では遅すぎた 激しい恋の風にー 巻き込まれたら最後さ… 」。
西城秀樹の「激しい恋」だ。おお、そういえば初代の誠は西城秀樹だった、と思い出せるぐらいの年齢の方じゃないと、この作品はつらいのではないか。武井咲ちゃんの歌う「あの素晴らしい愛をもういちど」をはじめ、「また逢う日まで」「空に太陽があるかぎり」などを登場人物が歌い出す場面はミュージカル仕立てになり、楽曲のもつイメージが、各シーンの時代性をうまく補完する。
ぎゃくに、なんでここで歌い出すの? しかも踊るの? と感じてしまう人にとっては、二時間強がつらい長さになるかもしれない。
主演の妻夫木くんが「万人うけする映画ではありません」と言ったそうだが、まちがいなくそのとおりだろう。
三池監督は「奇才」と称される。ふつう奇才とか異才とか言う場合、その才能をみとめつつも、よくわかんない部分もあるよね、紙一重だよね的扱いであることが多い。
「ヤッターマン」「ゼブラーマン」「十三人の刺客」。観た作品を思い出せば、たしかに奇才というしかない。ただ … 自分にはあわないかな、いやむしろキラいかな的な、ほぼ同世代の監督さんだ。
でも「愛と誠」は、楽しかった。
宅間孝行氏の脚本、小林武史氏の音楽、パパイヤ鈴木さんの振り付け、どれも一級品。安藤サクラさんの芝居もすごい。時代の才能が大集合しているなかで、妻夫木くん自身は実はかげうすいけど、普段通りの存在感を表し続ける武井咲ちゃんて、ほんとうはすごい役者さんなのだろうか。ひょっとして一番の奇才は咲ちゃんなのかもしれない。こんど思い切り不良の役とか予想もしてなかった悪い役を演じる彼女を観てみたい。