「富嶽百景」の授業(3) 一段落
富士の頂角、広重の富士は八十五度、文晁の富士も八十四度くらい、けれども、陸軍の実測図によって東西および南北に断面図を作ってみると、東西縦断は頂角、百二十四度となり、南北は百十七度である。広重、文晁に限らず、たいていの〈 絵の富士 〉は、鋭角である。頂が、細く、高く、華奢である。北斎にいたっては、その頂角、ほとんど三十度くらい、エッフェル鉄塔のような富士をさえ描いている。けれども、〈 実際の富士 〉は、鈍角も鈍角、のろくさと広がり、東西、百二十四度、南北は百十七度、決して、秀抜の、すらと高い山ではない。たとえば私が、インドかどこかの国から、突然、鷲にさらわれ、すとんと日本の沼津辺りの海岸に落とされて、ふと、この山を見つけても、そんなに驚嘆しないだろう。ニッポンのフジヤマを、あらかじめ憧れているからこそ、ワンダフルなのであって、そうでなくて、〈 そのような俗な宣伝 〉を、いっさい知らず、素朴な、純粋の、うつろな心に、はたして、どれだけ訴え得るか、〈 そのことになると、多少、心細い山である 〉。低い。裾の広がっているわりに、低い。あれくらいの裾を持っている山ならば、少なくとも、もう一・五倍、高くなければいけない。
Q1 この部分で対比されているものは何と何か。
A1 絵の富士と実際の富士
Q2「絵の富士」は、富士をどのような山として描いているか、10字で抜き出せ。
A2 秀抜の、すらと高い山
Q3「実際の富士」はどういう山だと「私」はとらえているか。本文の語を用いて15字以内で記せ。
A3 裾が広がっているわりに低い山。
Q4「そのような俗な宣伝」とはどのようなものか。(60字以内)
A4 日本を象徴する屈指の山として、秀抜ですらりと高い富士山のイメ
ージが作り上げられ、世間一般に広げられたもの。
〔別〕見た人がみな「ワンダフル」と無条件に賞賛する富士のイメージが
、現実とは異なって作られ、世間に流布しているもの。
Q「そのことになると、多少、心細い山である」について
Q5「そのこと」とは何か。(30字程度)
A5 何の先入観もなく富士を見た人が、感動する山かどうかということ。
Q6「そのことになると、多少、心細い山である」と言うのはなぜか。(60字以内)
A6 先入観を持たずに富士を見た場合、世間一般で評価されているほど
の感動を生み出す山ではないと、「私」は見ているから。
絵の富士 … 具 広重・文晁・北斎
∥
鋭角・高い・華奢(か細い[+イメージ〕)
秀抜の、すらと高い山
↓
ワンダフルなフジヤマ(=俗な宣伝) ※ 世間の視点
↑
↓
実際の富士 … 具 陸軍の実測図
裾が広がっているわりに低い
↓
心細い山 ※「私」の視点