町田くんの弟が、知らないおじさんの家にあがりこんでお菓子をもらっているという告発が、妹からなされた。
五歳の弟けーごと妹しおりは双子かな。
その少し上にミツルという弟、さらに中学生のニコがいて、第一巻では5人兄弟姉妹のいちばんのお兄ちゃんが町田くん(高1)だ。
公園でよく見かけるおじさんに声をかけられて家に遊びに行ったと、けーごは言う。
心配だから見てきてという母親の命を受け、町田くんはその人を訪ねた。
話してみるとすぐに、「あぶない人」ではないことがわかる。
昔はね、近所のおじちゃんおばちゃんが子ども達を見守ってたんだよ。今じゃ、声をかけると不審者って言われちゃう … 。
そう語るおじさんは、妹尾さんといい、おじいさんだった。
奥さんをなくし、子どもも孫もよりつかなくてさみしくてねぇと語る妹尾さんの家に、これからも遊びに行っていいですかと町田くんは言うのだった。
「うちは兄弟が多くて(ごらんの通り)家でひとりになることがまずないから。想像しにくいんですよね。
ひとり暮らしや、ほぼひとり暮らしみたいなことが」
おじいちゃんが答える、
「そうだね。何にもさみしいことなんてないよ、ひとり暮らし自体は」
「そうなんですか」
「そうだよ」
「さみしいのは、愛する人がいるということだ」
(いるから?)という目で町田くんがふりかえる。
「本当のひとりは孤独じゃない。誰かがいると思うからこそ、孤独なんだ」
「それは、愛する人がそばにいない時に、孤独ということですか?」
「まぁ、そうだね、時には。そばにいてもだけど」
「僕は孤独だと感じたことはないです」
「はは。それは君がまだ、誰も、何も、失ったことがないからだよ。
失う恐怖がまた、人を孤独にさせるんだ」
愛する人がいるとさみしくなる … 。
高校生の町田くんにはぴんとこない。
でも、何かを感じ取った町田くんには、あるクラスメイトのことが思い浮かんだ。
愛する人がいるとさみしくなる。失う恐怖がまた、人を孤独にさせる … 。
高校生の町田くんにはぴんと来なくても、われわれおっさんには、ぴんと来まくりだ。
むしろ楽しければ楽しいほど、そばにいる人が愛しければ愛しいほど、いい音楽やお芝居に心動かされれば動かされるほど、心のどこかでふと感じるさみしさを意識せざるを得なくなる。
先日の始業式の日なんか、また一緒なクラスじゃん、担任○○だよ、と廊下で盛り上がる新二年生たちを「うっせえよ、騒ぐなよ、一年は授業やってんだろ」と注意しながら、顔は笑ってしまい、同時にあと何度これがあるのかと思うと、泣きそうになった。じじいかっ!