今年一番ひりひりした映画が「オーバーフェンス」だったとすれば、今年読んだ本では『17歳のうた』のひりひり感がしみた。五本の短編が収められてる。
~ 東京に好きな人を残し、舞妓として働く彩葉。
マグロ漁師の娘として生まれ、漁師の生き方に憧れる留子。
伝説のレディース総長を姉に持ち、自らも一目置かれているマリエ。
失踪した兄の代わりに、自分が家を継ぎたい千夏。
憧れの幼なじみに勧誘され、アイドルとして活動するみゆき。 ~
5人のヒロインたちは、高2女子だけでなく、地方都市に住んでいるのも共通点だ。
家族や友人、地域の暮らし、自分をとりまく様々なしがらみとどう向き合って、これからに人生をつくっていくかを模索するヒロインたちの姿。
ちがうか。彼女たちは「どう作っていくか」などと論理的に整理しながら考えているわけではない。
やりたいことが形になりそうなのに、そう動こうとすると何かしら立ちふさがるようなものがあることに漠然と気づく。
17歳になるまでは気づかなかった壁のようなものを意識してしまったざわざわ感が(ひりひりじゃなかったの?)ほんとによく伝わってきた。
ちなみに、5作品ともに違った町(村)が舞台だが、登場人物の台詞はすべて方言で書かれていて、それがきわめて自然で、たぶんネイティブの人が読んだら感心するにちがいないレベルで、相当の書き手だと感じる。
~ 「千夏は、家継ぐんやんな?」
「さあ、どうやろ」
言葉を濁して空を見上げる。暑さは真夏と変わらないのに、雲の形が違っている。
薄く裂いた綿あめみたい。
季節があとひと巡りすると、私は十八歳だ。そのころにはもう、覚悟を決めていないといけないだろう。
揺れていいのは、十七歳までだと思っている。 「Changes」(坂井希久子『17歳のうた』文藝春秋) ~
そういえば、綾瀬はるかさんの「揺れる17歳」とDVDがあったな。十数年前、彼女がここまで大女優になると予想した人は少なかったのではないか。
17歳の若者が10年後、20年後どんな人になっているのか予想するのは難しい。
それは、久しぶりに会ったOBたちを見るときも、そう感じる。そんなものなのだ。
あるべき自分を想定せよとか、なりたい自分になるために努力せよなどというのは、本当は無理な話だ。
翌日どうなるかでさえ人は予想できないではないか。
そして、何歳になっても人は「揺れ」続ける。
自信に満ちあふれ揺るぎない人生を歩んでいるように見える人も、ほとんどの人はけっこう揺れ動いているのではないだろうか。
揺らぎがあるからこそ、自分や環境の変化に対応することができる。
揺れているからこそ安定を保てるという「動的平衡」の考え方は、人生そのものにもあてはまる。
いい年をしてあまりにも揺れ動き続け過ぎる自分への弁解ではなく、そう思う。