水持先生の顧問日誌

我が部の顧問、水持先生による日誌です。

「近代の原罪」(東大2020年)の授業(4)

2020年04月22日 | 国語のお勉強(評論)
⑤ 親から子を取り上げて集団教育しない限り、家庭条件による能力差は避けられない。〈 そのような政策 〉は現実に不可能であるし、仮に強行しても〈 遺伝の影響 〉はどうしようもない。身体能力に恵まれる者も、そうでない者もいるように、勉強のできる子とそうでない子は必ず現れる。算数や英語の好きな生徒がいれば、絵や音楽あるいはスポーツに夢中になる子もいる。それに誰もが同じように努力できるわけではない。
⑥ 近代は神を棄て、〈 〈個人〉 〉という未(み)曾(ぞ)有(う)の表象を生み出した。自由意志に導かれる主体の誕生(タンジョウ)だ。〈 所与と行為 〉を峻別し、家庭条件や遺伝形質という〈外部〉から切り離された、才能や人格という〈内部〉を根拠に自己責任を問う。
⑦ だが、〈 これ 〉は虚構だ。人間の一生は受精卵から始まる。才能も人格も本を正せば、親から受けた遺伝形質に、家庭・学校・地域条件などの社会影響が作用して形成される。〈 我々は結局、外来要素の沈殿物だ 〉。確かに偶然にも左右される。しかし偶然も外因だ。能力を遡及的に分析してゆけば、いつか原因は各自の内部に定立できなくなる。社会の影響は外来要素であり、〈 心理は内発的だという常識は誤りだ 〉。認知心理学や脳科学が示すように意志や意識は、蓄積された記憶と外来情報の相互作用を通して脳の物理・化学的メカニズムが生成する。外因をいくつ掛け合わせても、内因には変身しない。したがって〈 自己責任の根拠は出てこない 〉。

 未曾有……これまでに一度もなかったこと。
 表象……思い描いたもの、イメージ。
 所与……与えられたもの、前提。
 峻別……きびしく区別すること。
 虚構……つくりごと、フィクション。
 遡及的……過去にさかのぼって
 定立……ある判断・主張を確立すること


「そのような政策」について、
Q19 具体的には何を指すか。4字で抜き出せ。
A19 集団教育

Q20 その目的は何か。本文の言葉を用いて説明せよ。
A20 家庭条件による能力差を避けて、均等な教育機会を保障すること。

Q21「遺伝の影響」とあるが、「影響」下にあるものの具体例が述べられている部分を抜き出し、最初と最後の五字ずつを記せ。
A21 身体能力に……ではない。

Q22「〈個人〉」と同じ意味を表す言葉を11字で抜き出せ。
A22 自由意志に導かれる主体

「所与と行為」について、
Q23「所与」とはこの場合、何を指すか。10字以内で抜き出せ。
A23 家庭条件や遺伝形質

Q24「行為」の主体は何か。簡潔に記せ。
A24 才能や人格を有する個人

Q25「これ」とは何か。簡潔に記せ。
A25 行為の責任はすべてその人自身の内部にあるとする考え。

Q26「我々は結局、外来要素の沈殿物だ」とはどういうことか。本文の言葉を用いて60字以内で説明せよ。
A26 私たち人間は、親から受け継いだ遺伝形質に社会的影響が作用するという
   外部から得られた要素の積み重なりで存在するということ。

Q27「心理は内発的だという常識は誤りだ」と言えるのはなぜか。「~から」につながるように、45字~50字を抜き出して答えよ。
A27 意志や意識は、蓄積された記憶と外来情報の相互作用を通して
   脳の物理・化学的メカニズムが生成する(から)。

Q28「自己責任の根拠は出てこない」とあるが、なぜそういえるのか。60字以内で説明せよ。
A28 個人の意志や人格を形作るのは全て外的要因であり、
   自由意志の主体としての個人はもともと虚構にすぎないから。


⑤ 家庭条件の能力差解消
     ↓
  親と離れて集団教育
     ↓
  遺伝の差はどうしようもない


⑥ 近代が生み出したもの
    ∥
  〈個人〉…… 未曾有の表象
    ∥
 自由意志に導かれる主体

  所与 …… 家庭条件・遺伝形質〈外部〉
   ↑
   ↓
  行為 ← 才能・人格〈内部〉
    ↓
   自己責任


⑦ 主体=個人→自己責任
     ∥
    虚構

   才能・人格 … 遺伝形質 + 社会影響(外因)
      = 我々 … 外来要素の沈殿物

   意志や意識 … 記憶と外来情報の相互作用を通して生成(外因)
     ↓
  自己責任の根拠は出てこない
コメント
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