goo

庶民に愛された地獄信仰の謎 中野純

本書を手にとってまず目につくのがおどろおどろしい口絵写真。冒頭から面白い写真が満載で、それを見ているだけで作者の言いたいことがかなり伝わってくるような気がする。本文を読む前のつかみとしてかなり秀逸だ。これだけ面白い口絵を見せられると、文章の方がそれ以上に面白くないと収まりがつかないのだが、文章の方もその期待に十分こたえてくれている。但し、本文になると、とたんに記述に対応した写真がほとんど掲載されなくなってしまっており、不親切極まりない。この本の主人公である「奪衣婆」や「閻魔様」の外見上のバラエティの多さが一つの面白さなのにそれがどのようなものなのか写真がないことが多くて、何度もいらいらさせられた。読んでいると、著者のこの分野に関する博識振りと徹底した取材振りに関心させられる。今まで全く知らなかったが、こんな世界があったのかと驚かされ、こうした失われつつある民間伝承に目をつけた着眼点のよさとかにも驚かされる。最近、今の日本が、便利さや効率というものを重視するなかで、失ってきたものを見直そうという動きがあるが、ここに描かれた世界もそうした失われたものの1つだ。しかも、ここまで忘れ去られたものも珍しいかもしれない。本書を読んでいると、過去の見直しといっても、どこをどう見直せば良いのかすら定かでなくなるという不安が頭をよぎる。それにしても、文章の中で、何の注釈もなく「ネゴシックス似の閻魔様」という記述があって、心底驚いた。「ネゴシックスってそんなにメジャーだったか?」「もしかしたら私が知らないだけでネゴシックスというのは他の意味があるのでは?」などと真剣に悩んでしまった。(「庶民に愛された地獄信仰の謎」 中野純、講談社プラスα新書)

コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )