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夜行 森見登美彦

帯に「森見ワールドの集大成」という謳い文句が書かれていて、否が応でも高い期待を持って読み始めた。読み進めていくと、不思議な話が延々と続いていて、何がどうなっているのか判らなくなってくる。すでに作者の術中にはまったような感覚だ。読みすすめていって、おぼろげながら見えてくるのは、ある画家の描いた数枚の絵を出入り口として、主人公たちが現実の世界とその世界に並行して進んでいると思われるパラレルワールドを行ったり来たりしているという構図だ。最後に、それを決定的にするどんでん返しが待っているのだが、そこに至っても、どちらが現実でどちらがそうでないのか判然としない。これまでの作者の作品についても、何となく不思議な世界に迷い込んだような感覚が読み手を楽しませてくれていたが、それでもここまで現実と虚構の世界が渾然としてしまっている状況にはなかったと思う。しかも現実世界と非現実世界との接点に漂う作者独特のユーモラスなドタバタした「展開が本作では完全に鳴りを潜めてしまっている。不思議な世界が不思議なままで終わることは作者のこれまでの作品の特徴でもあり、それについても違和感はないのだが、これは読者にとっては「森見ワールドの集大成」ではなく「新境地」」ではないかと思う。自分にとっては、かつての現実と非現実の境目で展開するユーモラスな話が懐かしく感じられた。(「夜行」 森見登美彦、小学館)

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