書評、その他
Future Watch 書評、その他
セリヌンティウスの舟 石持浅海
固い絆で結ばれた6人の男女がいて、そのうちの1人が他の5人が寝ている横で自殺するという事件が起こる。但し、その自殺にはほんの些細な疑問がある。残された5人は、その疑問をどう解釈したら良いのかを話し合い始める。6人全員の善意を信じるということを前提に、最初の疑問を解消する理由を突き詰めていくと、今度は別の疑問が生じてしまう。果たして、6人全員の善意を前提にしたうえで、全ての疑問を解き明かす答えはあるのか?あるいは全員が善意で行動したという前提に誤りがあるのか? 推理劇は最後にある結論に達する。表面的には一般的な「本格推理小説」と随分違う趣の話だが、推理の醍醐味という点では、本格推理の味わいを持った作品だと思う。、著者の本は「アイルランドの薔薇」以来2冊目。最近著者の本が人気を博していることは知っていたが、人気の理由が納得できる作品だ。(「セリヌンティウスの舟」 石持浅海、光文社文庫)
真夜中のパン屋さん 大沼紀子
「謎解きはディナーの後で」がベストセラーになってから、あるいは東日本大震災の後ということかもしれないが、最近シリアスでないミステリーものが本屋さんで平積みになっているのにたびたび出くわす。「謎解き…」の2匹目のドジョウ狙いということもあるだろうが、震災後どうもシリアスなフィクションが手に付かなくなってしまったというような風潮があるのではないか、本屋さんお店先の異変にはこうしたことが影響しているのではないかと思ったりする。私自身、今まで刊行されれば真っ先に読んでいた作者の本をなかなか読みだす気になれないという事態に陥っている。その代わりと言っては何だが、本書のように、軽い感じで、しかも最後にはほのぼのとさせてくれそうな本につい手が伸びてしまう。などと考えながら読み始めた本書だが、読んでみると、なかなか重たい話であった。何故か夜しかやっていないパン屋さん。そこに集まってくる様々な人たちの話だ。集まってくる人たちは主に「親との折り合い」に苦労している人たちだ。読み進めていくと、なぜこのパン屋さんが夜しかやっていないのか、作者がどうしてそうした設定にしたのか、その深い理由が判ってくる。読み終えて、たまたま見つけることができた傑作という感じがした。(「真夜中のパン屋さん」 大沼紀子、ポプラ文庫)
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