宙組が発足したのは1998年の事。
東京での通年公演に備える為という理由でした。
トップスター姿月あさと、二番手和央ようか、3番手湖月わたる
4番手朝海ひかる・・・という陣容。
ところが発足してわずか1年で4番手の朝海が組替えで抜け、
その1年後には新専科制度が発足して湖月と樹里が抜け・・
以後、宙組は頻繁な組替えと退団を繰り返して今日に至ってます。
そんな中、ただ一人、和央ようかだけは新専科制度の影響も受けず
するりと順当にトップスターに上り詰めました
そういう意味では本当に運のいい人だなあ・・・と思いますが。
2004年、「ファントム」を代表作にようやく、宙組の中で
「和央ようか」という個が確立したように思ったのは私だけ?
「ファントム」は今年再演が決まっているけど、果たして名作かどうかと
問われると「それは違うのではないか」と思わざるを得ないんですね。
「ファントム」は本来恋愛物語だった筈なのに、2幕目以降はすっかり
「父子物語」に変貌してしまって、1幕目と2幕目のギャップが激しい事や
ストーリー展開にムラが見えることが名作たりえなくしていると思うんです
それでも「この作品が好き」という人が多いのには、やはり和央の
演じたエリックの「はかない少年のような危うさ」に惹かれたからではないかと。
2幕目の樹里咲穂演じるキャリエールとの銀橋シーンは、
あの作品の全ての欠点を払拭するようなできばえでした。
傷を抱えつつ必死に頑張りながら虚勢を張ったり、少し甘えてみたり
すねたりするエリックの魅力は、今までの宝塚的トップスターの
枠にははまらない新鮮な、そしてまさしく現代にふさわしい姿のように
思え・・・ こういうトップが一人くらいいてもいいな・・・と。
以後、「等身大で世の中をすねているように見えるけれど実は
誠実で頑張り屋で優しい兄貴」的なムードを確立することになります。
代表的な作品が「BOXMAN」だし、「ステラマリス」でもあるでしょう。
(その分花總まりの役割が削られていき、何となく二人が並んだ時の
相性の悪さを感じてしまったけど)
そして、多分その集大成が「NEVER SAY GOODBYE」なのだと思います。
「ポーランド生まれのユダヤ人」というジョルジュは生まれながらにして
マイノリティな存在。
そんな彼が必死の努力で自分の夢を実現させるあたり、
「世をすねているけど実は誠実」な一面が。
そして、本来傍観者の立場である筈の「スペイン内戦」に積極的に
関わっていくあたりが「優しい兄貴」的雰囲気。
多分ジョルジュが内戦に引き込まれていくシーンは、他の人が演じたら
「偽善者」そのものに見えたかもしれません。
でも、そう見えなかったのは和央の持つ「等身大の誠実さ」が
前面に出たからではないかと。
まあ・・・結局、和央ようかという人は自分のカラーを確立
するのに5年ないし6年かかったという事になり、それは歴代の
トップスターの中でも非常に遅かったかもしれませんね。
でも、多くのトップスター達が駆け足でトップ人生を駆け抜けていくのに
彼女がゆったりとそして確実に地歩を固める事が出来たというのは
本当に恵まれていたと思うし、それが彼女の「運」だったのでしょう。
最後の最後に事故で怪我という不運に見舞われてしまったけれど
それでも和央ようかは非常に恵まれたトップ人生を送ったのだと
確信しています
今、彼女にかけてあげたい言葉があるとすれば
「タカちゃん、お疲れ様。いじけもせずよく頑張ったね 。偉い偉い。
これからは自分の幸せの為に生きるんだよ。
体と心を大事にして、これから先のながーーい人生を全うして
欲しいです」
何だか・・・ほんと、寂しいです。