蔓人参
今は銀山湖と呼ばれている電発の奥只見ダムが完成してから半世紀を越える日々が流れ、
工事の初期に亡父がトラックの運転手として働いた事など夢に近い昔話となってしまった。
その頃父が、地元の人から、これはこの辺りで見られる、
貴重な物で朝鮮人参に匹敵する薬効をもつ珍しい物と言われ、押し頂いて来た物が有った。
名前は「ツルニンジン」でキキョウ科のつる性植物だ。
後年、父は近くの山に山菜採りに入った折、偶然その存在に氣付くと回りにいくらでもあり、
驚いたとよく聞かされた。しかも、彼の地で貰ったものよりも数段太い物がいくらでも有ったのである。
それは別名を、老人斑のようなその花の紋様から「ジイソブ」とも呼ばれる。
朝鮮半島にも自生し、かの地の人々は日本人が松茸を珍重するが如く喜び、
その成分は朝鮮人参と同じくサポニン成分を多く含むと言う。
独特の甘い香りの強い、若芽を摘んで茹でて食べてよし、その根を掘り起こし、
土を丁寧に落し、平たくなるまで叩いて、味噌を付けて焼き、スルメのように裂いて食べるも良し。
薬草独特の香りと不思議な味がする。
こんな貴重とも思える植物が、身近の山にいくらでもある事も愉快な話ではある。
山菜採りの際に、知らずに踏みつけると、甘い独特の強い香りで見つける事が有るところも面白い。