昔々の話の続き
明治十二年生まれの祖母の話です。
その二
昔、夜道を歩く人々を怖がらせる人魂があったそうだ。夜道の脇にくっきりと浮かび出て、
それを見た村人は震えながら、後も振り返らずに逃げ帰った。その夜道はしばらく人影が途絶えたそうである。
祖母の父、私の曽祖父が繭を町場の問屋まで売りに行った帰り道の事である。
一杯やって帰路につくと山中の村に帰る道中は暗くなってしまった。
剛毅な曽祖父は期するところも有ったのであろう。
人魂が出るという噂の場所まで来ると、道から少し離れた林の中に噂どおりに出たそうだ。
豪胆な曽祖父は「狐か狸の悪さに違いない。ここは一つ懲らしめて、
悪戯を止めさせよう」と考えた。持っていた、竿秤の分銅を風呂敷に包み、そっと人魂に近付き思い切り殴った。
十分な手応えに良く見ると、殴ったのは狐でも狸でも無く、古びた木の切り株だった。
曽祖父のおかげで人魂の正体も分り、村人たちも安心して夜道を歩けるようになったと言う。
想像するに、その人魂の正体は古い切り株に生えた、ある種のキノコか、
発光性の微生物だったのではないかと考えている。
今も昔も、話には尾ひれが付くし、つまらない噂話が信じられ、怪談になったりするのは同じ事だと、
怪談話を信じない私は思うのである。
(続くその2あり)