その犬は外見からシェパードと和犬の血が入っているようだ
とても賢く人間の内面まで見抜けるようにも思える
まだ仔犬の頃に東北の震災に遭い 飼い主を喪った
そうして 犬は会いたい人間に会うために行動する
会えるかどうかも分からないのに・・・その人間を捜して長い長い旅に出た
ー会うためにー
ー必ず 会うのだー
この強い意志
その旅の途中で様々な人間に出逢っていく
「男と犬」
震災後の街で 定職を見つけられない男は その首輪に多聞とある犬と出逢う
男は 痴呆症の母と介護する姉の為にも大金を必要としており それでやばい仕事を引き受ける
多聞を昔飼っていた犬の名前で呼び 男が多聞を連れていくと元気になる母親
その姿に生気を取り戻す男の姉
守り神と言って仕事にも多聞を連れていっていた男
だが幸運は続かず やっかいごとが起こり
男は命を落とすのだ
「泥棒と犬」
男の犬の多聞を欲しがっていた泥棒は 事故の現場から無理やり多聞を連れ去る
一緒に故国へ連れ帰ろうとしていたが
彼もまた
彼の持つ金を狙う組織から逃げられず
死んだ
「夫婦と犬」
夫は山で出会った犬に命を救われた
犬が吠えなければ 熊に遭遇するところであったのだ
夫には働き者の妻がいた
夫を愛して一緒になった妻だが 夫のあまりの身勝手さに疲れてしまっている
そして夫もこのままではいけないとわかりながらも
あと5年・・・などと思っている
けれど どんな形でか 終わりはやってくる
「少女と犬」
事故で両親が死んで 自分も片足を失い 移動は車椅子
少女は死のうと思って東尋坊へ下見に
そこで犬と出逢った
何故だか その犬が気になる少女は
自殺しないか その身を案じてくれた男性に その犬を捜してくれるように頼んだ
男性は犬を見つけてくれた
少女は犬と暮らしたくて リハビリを頑張り 義肢をつけて歩けるようになる
これまで苦労をかけた祖母に楽させてあげたいーとまで考えられるようにもなった
犬は川に流されていた仔犬を岸にひっぱってくる
少女はこの仔犬を育てようと思う
犬が少女のために届けてくれたようにも感じて
「娼婦と犬」
女は山の中で怪我をしている犬を見つけ動物病院へ連れていく
惚れた男がどうしようもないクズ男
そこで どんどん落ちていってしまったけれど 心優しい女
犬と暮らすうち 女は落ちていくだけの自分
これまでのどうしようもない生き方を思い返す
そして 自分が犯した罪の清算を考えて・・・・・
「老人と犬」
妻が病死後 娘とも折り合い悪く独り暮しの老人は・・・ひっそりと生きて死ぬのも悪くないと思っていた
彼もまた病気を抱えていたから
そんな彼の庭に現れた犬
老人は猟師で以前は犬もいた
もう死んでしまったが
犬のいる暮し
それは温かさをくれる
老人の前にどうして犬は現れてくれたのか
もしや一人きりで死なせないためにか・・・・・
「少年と犬」
震災後 話さなくなった少年がいる
笑顔も見せなくなり 海に怯え
だから両親は熊本県へ移住し 農業に従事
その少年・光が笑顔を見せる
言葉も話し始めた
父親が出逢った犬を連れてきたから
その犬は少年がまだ幼い頃 公園で出会った犬だった
初めて会った時から犬も男の子も
犬は少年を捜して捜して 長い長い旅を続けてきた
やっとやっと会えた
続くはずだったのに
熊本県にも地震が
少年を庇うように犬は 多聞は死んでしまった
少年は自分の中に多聞はいるという
いつか姿を変えて多聞が少年のもとへ戻ることがあればいい
ーなんてことをね 思いました
小説だけれど
解説は作家の北方謙三さん
自身と犬とのことについても触れておられます
犬は愛情深くとても賢い生き物です
幾千倍もの愛情を返してくれる
幾万倍もの力で包んでくれる
これまで一緒に暮らして 先に逝ってしまった犬たちに想い馳せながら
「ありがとう ごめんね」
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ごめんなさい