ロシア軍は、ウクライナ南部ヘルソン州で州都を含むドニプロ川の西岸地域から軍を撤退させました。
へルソンからクリミア半島までの約100キロの戦いが今後の戦況を占うものとなる。
ロシア軍は、ここで起死回生の戦いをしなければ、戦争全体の敗北になってしまう。天下分け目の決戦場と言ってもよいと、軍事アナリストの西村金一氏。
ロシア軍のへルソン撤退を「罠」とみるか、「戦線の縮小(後退)」とみるか――。
罠であればロシア軍は勝利を追求していることであり、戦線の縮小であればこのまま敗北の道をたどることになる。
では、今回の撤退発表が「罠」か「戦線の縮小」か、あるいは「罠と縮小」両者なのか、南部でのこれからの戦いについて分析すると、西村氏。
戦っている最中に、撤退する前に「我々は撤退する」と敵に伝わるように公言する指揮官はどこにもいない。私は、聞いたことがない。
なぜなら、軍事作戦で最も難しいのが「撤退作戦」だからだと、西村氏。
「撤退行動」のうち、敵と戦っている部隊が敵との戦いをやめて後ろに下がることを「離脱」といい、その後、敵から遠く離れていくことを「離隔」という。
この「離脱」は極めて困難な作戦だと。
実際に撤退する場合には、撤退する企図を敵に察知されないために完全に秘匿する。そして、相手に一撃を与え、敵が怯んだすきに逃げるのだと、西村氏。
ハルキウ正面では、ロシア軍の防御部隊の撤退が整然と行われなかったので、混乱して防御が簡単に崩壊してしまったと。
これまで嘘を言い続けてきたロシアなのに、「撤退する」ということだけを信じることはできない。
また、ロシア軍がこれまで戦略なく戦ってきたとしても、稚拙な戦いを行ってきたとしても、これから撤退しますとは絶対に言わないはずだ。
当然、何か悪だくみがあるとしか考えられないと、西村氏。
ロシア軍がへルソンを撤退するというのは、ドニエプル川からクリミア半島の付け根までの間(約100キロ)で防御戦闘を行うことであって、クリミア半島まで抵抗せずに後退することではない。
ロシア軍が、この防御戦闘で時間をかけて守り切るのか、あるいはウクライナ軍のドニエプル川渡河時の戦力分離に乗じて撃退する行動(反撃)を取るのか、注目すべきところであると、西村氏。
ロシア軍は、計画通りに撤退し敗北しない戦いができる 3つの方法があると、西村氏が紹介されています。
しかし、本当の撤退で、へルソンからクリミア半島の付け根までの間の防御が崩れれば、クリミア半島での戦いになってしまうと。
クリミアでの戦いでは、ロシア軍はどこからも戦闘支援を得られないことから、クリミア半島を奪還されてしまう。
クリミア半島がウクライナ軍に奪還された場合は、ロシアの国内からも、欧米からも、世界からもロシア軍の敗北と見なされると、西村氏。
これから、へルソンからクリミア半島までの約100キロの戦いが今後の戦況を占うものとなる。
天下分け目の決戦場と言ってもよいと!
ロシアは、ここで敗北すればクリミア半島まであっという間に占領されてしまう。クリミア半島内では、兵站支援や関連部隊との協力が難しいからだ。
ロシア軍は、これまで大きな損害を受けてきた。しかしながら、ここで起死回生の戦いをしなければ、戦争全体の敗北になってしまう。
ロシアが化学攻撃等の罠を実行するかどうかに注目する必要があろうと、西村氏。
日本は今こそ、ウクライナに軍事支援を行うべきだと、西村氏。
化学兵器禁止機関(OPCW)に化学防護車を提供してもいいのではないか。これは、武器の供与ではなく、人道支援だと。
# 冒頭の画像は、ロシア軍の撤退を歓迎するヘルソン市民
アンズの紅葉
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へルソンからクリミア半島までの約100キロの戦いが今後の戦況を占うものとなる。
ロシア軍は、ここで起死回生の戦いをしなければ、戦争全体の敗北になってしまう。天下分け目の決戦場と言ってもよいと、軍事アナリストの西村金一氏。
ロシア軍のヘルソン撤退で天王山迎えるウクライナ戦争 クリミアまでの100キロが勝負、化学兵器使用の可能性高まる | JBpress (ジェイビープレス) 2022.11.14(月) 軍事アナリスト 西村 金一
ロシアのセルゲイ・ショイグ国防相は11月9日、「ウクライナ南部ヘルソン州で州都を含むドニプロ川の西岸地域から軍を撤退させる方針」を明らかにした。
これに対し、ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は「敵はわれわれに贈り物を与えたり、善意を示したりはしない」と述べ、ミハイロ・ポドリャク大統領府長官顧問もツイッターで「ロシア軍が戦わずにヘルソンを撤退する兆候は見られない」と疑問視している。
米欧からは、「ロシア軍がウクライナ軍を罠にはめて破壊する準備をしている」という情報、他方で「戦闘に誘い込むための罠である可能性は低い」という情報もある。
ロシア軍のへルソン撤退を「罠」とみるか、「戦線の縮小(後退)」とみるか――。
罠であればロシア軍は勝利を追求していることであり、戦線の縮小であればこのまま敗北の道をたどることになる。
戦理から考えると「罠」と考えられるし、今のロシア軍の戦力の実態からすれば「戦線縮小」であろう。
では、今回の撤退発表が「罠」か「戦線の縮小」か、あるいは「罠と縮小」両者なのか、南部でのこれからの戦いについて分析する。
■1.あり得ない「戦闘中の撤退発表」
「撤退」を表明するのは、停戦合意ができた場合のみであり、現に戦っている場合には、撤退という兆候を絶対に出さないのが戦理である。
戦っている最中に、撤退する前に「我々は撤退する」と敵に伝わるように公言する指揮官はどこにもいない。私は、聞いたことがない。
それはなぜなのか。軍事作戦で最も難しいのが「撤退作戦」だからだ。
「撤退行動」は、銃を向けている敵を前にして、自分たちは後ろに下がらなければならない。そんなことは、単純に考えても、難しいと分かる。
「撤退行動」のうち、敵と戦っている部隊が敵との戦いをやめて後ろに下がることを「離脱」といい、その後、敵から遠く離れていくことを「離隔」という。
この「離脱」は極めて困難な作戦だ。
なぜなら、陣地を放棄して後ろに下がることは、攻撃もできないし、壕から出て防護力がなくなるので、敵からの砲撃を受け損害が大きくなるからだ。
実際に撤退する場合には、撤退する企図を敵に察知されないために完全に秘匿する。そして、相手に一撃を与え、敵が怯んだすきに逃げるのだ。
しかし、そう簡単にできることではない。失敗すれば、総崩れになり、敵に陣地を占領されてしまう。
ハルキウ正面では、ロシア軍の防御部隊の撤退が整然と行われなかったので、混乱して防御が簡単に崩壊してしまった。
■2.撤退発表は罠にはめるための嘘か
戦史を見ると、離脱を気付かれずに後ろに下がって安全に退却できたという例は、旧日本軍がアリューシャン列島にあるキスカ島から、霧の中、撤退したことだけだ。
これも、作戦計画がすばらしかったことと、霧という気象に恵まれたからだった。そのほかに、撤退行動が成功した事例を私は知らない。
これまで嘘を言い続けてきたロシアなのに、「撤退する」ということだけを信じることはできない。
また、ロシア軍がこれまで戦略なく戦ってきたとしても、稚拙な戦いを行ってきたとしても、これから撤退しますとは絶対に言わないはずだ。
当然、何か悪だくみがあるとしか考えられない。
三国志の世界では、逃げると見せかけて敵を谷に引き込み、両方の山から矢を雨のように降り注ぎ、敵を殲滅するという戦がよくある。
ほかにも、撤退の行動とこれまでの情報とは異なっているものがある。
ロシア軍は、劣勢な東部に新たな戦力を投入せずに、南部へルソン州に投入している。また、都市へルソンのドニエプル河の南に陣地を構築している情報などである。
■3.ロシアはウクライナ軍を撃退できるのか
ロシア軍がへルソンを撤退するというのは、ドニエプル川からクリミア半島の付け根までの間(約100キロ)で防御戦闘を行うことであって、クリミア半島まで抵抗せずに後退することではない。
ロシア軍が、この防御戦闘で時間をかけて守り切るのか、あるいはウクライナ軍のドニエプル川渡河時の戦力分離に乗じて撃退する行動(反撃)を取るのか、注目すべきところである。
ウクライナ軍の侵攻予想図と戦闘の焦点(赤枠)
なぜなら、ロシア軍が反撃ができないのであれば、時間の経過とともに国境線まで押されていくし、反撃を行いウクライナ軍に大きな打撃を与えられれば、現状の接触線を保持することができるからだ。
このことを、へルソンからクリミア半島までの地形、これまでの戦闘の経過、ロシア軍の南部への増強、ドニエプル川以南での陣地構築、ロシア軍の損耗などの情報を総合して分析する。
(1)ウクライナ軍をへルソン市街地に引き入れて火力打撃する
へルソンの市街地はドニエプル川の北側にある。
ロシア軍のへルソンの守りは、後方にドニエプル川があるので、守りに失敗すれば、退路はなく、ロシア軍は殺傷されるか捕虜として捕まってしまう。
今のロシア軍では、へルソンを守り切る戦力と気概はない。ロシア軍としては、ウクライナ軍にいずれ占領されると考えているだろう。
ウクライナ軍がこの都市を占領しても、その南にはドニエプル川があるので、占領に引き続いて攻撃を続行することはあり得ない。
したがってウクライナ軍の攻撃はここでいったん止まる。
ロシア軍には、ウクライナ軍がへルソンに集結すれば、大量の砲弾、ミサイルを撃ち込んで撃破するという構想(火力弾幕攻撃)もあるだろう。
へルソンへの火力弾幕攻撃予想図(イメージ)
この時、市街地に対して、化学剤が入った砲弾を撃ち込む可能性は十分にある。
市街地はガスが滞留しやすいので、化学弾攻撃には有効だ。
また、サリンガスは揮発するので、化学剤を使用したという証拠の解明には時間がかかる。一時的に言い逃れができるのだ。
(2)渡河後、ウクライナ軍の戦力分離に乗じて火力弾幕で打撃(殲滅)
ウクライナ軍がへルソンを奪回後、ドニエプル川を渡河して東岸に渡る。
ウクライナ軍は、ロシア軍の抵抗を受けるが、東岸で橋頭保(先に渡河した部隊が、後続部隊が安全に渡河できる、引き続く攻撃の準備ができるために必要な地積)を構築する。
つまり、渡河したウクライナ軍は、ドニエプル川で第1線攻撃部隊と後続部隊が分断されることになる。
この地点に、ロシア軍が火力ポケットを作って、大量の砲弾、ミサイルを撃ち込めば、渡河して橋頭保を構成している部隊は大きな打撃を受けることになる。
このポイントでも、化学剤が入った砲弾や汚い爆弾を撃ち込む可能性は十分にある。
サリンガスの方が、誰が使用したのか解明するのに時間がかかるので、サリンガスを使う可能性が高い。
汚い爆弾は、核物質が地面に残ることから、発見され誰が使用したのか識別される可能性が高い。これだと、ロシアが世界の悪者になる。
ドニエプル川東岸への火力弾幕打撃予想図(イメージ)
(3)クリミア半島の付け根で火力弾幕で打撃(殲滅)
クリミア半島の付け根には、湖沼が点在している。このために、クリミア半島へ攻撃するには、湖沼がない西部の狭い通路を通らなければならない。
ロシア軍には、この地でウクライナ軍を止めて、停止しているウクライナ軍に対して、大量の火力を撃ち込んで撃破するという構想もあるだろう。
この場合も、攻撃部隊と後続部隊が分断されるので、各個に撃破される可能性が高まる。
この地での攻防は、クリミア半島が奪還されるかどうかの瀬戸際なので、小型で低出力の核兵器、化学砲弾あるいは、汚い爆弾で攻撃する可能性が高い。
クリミア半島付け根での火力弾幕打撃予想図
ロシア軍は、計画通りに撤退し、(1)から(3)までの方法で戦えば、敗北しない戦いができる。
本当の撤退で、へルソンからクリミア半島の付け根までの間の防御が崩れれば、クリミア半島での戦いになってしまう。
クリミアでの戦いでは、ロシア軍はどこからも戦闘支援を得られないことから、クリミア半島を奪還されてしまう。
クリミア半島がウクライナ軍に奪還された場合は、ロシアの国内からも、欧米からも、世界からもロシア軍の敗北と見なされる。
だから、ロシア軍のへルソン陥落、その後クリミア半島に至るまで、ただ単に撤退する可能性は低いのである。
■4.クリミア半島までの100キロが天王山
へルソン州でのロシア軍とウクライナ軍の戦闘では、6~9月末までは両軍はほとんど動きがなかった。
10月に入って、数日間でへルソンの北東部の右岸地域でウクライナ軍の攻勢が20~30キロほどあった。
その後、再び接触線の動きはほとんどなく、ロシア軍のへルソンの撤退発表(11月9日)の後、11月10日になって動きが出てきた。
これから、へルソンからクリミア半島までの約100キロの戦いが今後の戦況を占うものとなる。
天下分け目の決戦場と言ってもよい。
この地が、ウクライナ軍に簡単に占拠されることになれば、クリミア半島まで占領が早期に達成されることになる。一方、ロシア軍が守り切れば、クリミア半島はロシア領に残る。
ロシア軍は、化学兵器や汚い爆弾を使用するならば、この100キロの地で使う可能性が高い。
ウクライナでの戦いの中で、化学兵器等が使用される可能性が最も高まっている。小型で低出力の核兵器も使う可能性も出てきたということだ。
ウクライナ軍はドニエプル川を渡河しなければならない。渡河から橋頭保を確立するまでの戦いが最も危険な場面になる。
米国からの情報をもとに、ロシア軍の配備を確認し、ロシア軍の指揮所や弾薬庫を引き続き、長射程誘導ロケットや弾で攻撃し、化学兵器使用の情報収集に焦点をあてて行動するであろう。
■5.ロシアは戦争の山場に策を練って戦う
ウクライナとロシアの戦争は、これから最大の山場を迎える。
ロシアは、ここで敗北すればクリミア半島まであっという間に占領されてしまう。クリミア半島内では、兵站支援や関連部隊との協力が難しいからだ。
ロシア軍は、これまで大きな損害を受けてきた。しかしながら、ここで起死回生の戦いをしなければ、戦争全体の敗北になってしまう。
ロシアは、ここでどのようなことをしてでもウクライナ軍を撃破する行動を取ってくるだろう。策を練って、罠を仕掛けて作戦を実行してくるとみてよい。
ロシアがそうすることができず、勝利できなければ、敗北の道を転がり落ちることになる。
欧米諸国は、ロシアが化学攻撃等の罠を実行するかどうかに注目する必要があろう。
シリアでは、サリンが入った多連装ロケット弾が使用された。ロシア軍もこの砲弾を使用する可能性がある。
日本は、ロシアの化学攻撃に注目しなければならない。
そして、ウクライナ軍が化学攻撃を受ける可能性を「懸念」するだけではいけない。
日本は今こそ、ウクライナに軍事支援を行うべきだ。
ウクライナ軍に、化学防護マスク約1万個(2~3個旅団の兵員数分)や化学防護車(82式指揮通信車改良)数台を供与する時がきた。
あるいは、化学兵器禁止機関(OPCW)に化学防護車を提供してもいいのではないか。これは、武器の供与ではなく、人道支援だ。
ロシアのセルゲイ・ショイグ国防相は11月9日、「ウクライナ南部ヘルソン州で州都を含むドニプロ川の西岸地域から軍を撤退させる方針」を明らかにした。
これに対し、ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は「敵はわれわれに贈り物を与えたり、善意を示したりはしない」と述べ、ミハイロ・ポドリャク大統領府長官顧問もツイッターで「ロシア軍が戦わずにヘルソンを撤退する兆候は見られない」と疑問視している。
米欧からは、「ロシア軍がウクライナ軍を罠にはめて破壊する準備をしている」という情報、他方で「戦闘に誘い込むための罠である可能性は低い」という情報もある。
ロシア軍のへルソン撤退を「罠」とみるか、「戦線の縮小(後退)」とみるか――。
罠であればロシア軍は勝利を追求していることであり、戦線の縮小であればこのまま敗北の道をたどることになる。
戦理から考えると「罠」と考えられるし、今のロシア軍の戦力の実態からすれば「戦線縮小」であろう。
では、今回の撤退発表が「罠」か「戦線の縮小」か、あるいは「罠と縮小」両者なのか、南部でのこれからの戦いについて分析する。
■1.あり得ない「戦闘中の撤退発表」
「撤退」を表明するのは、停戦合意ができた場合のみであり、現に戦っている場合には、撤退という兆候を絶対に出さないのが戦理である。
戦っている最中に、撤退する前に「我々は撤退する」と敵に伝わるように公言する指揮官はどこにもいない。私は、聞いたことがない。
それはなぜなのか。軍事作戦で最も難しいのが「撤退作戦」だからだ。
「撤退行動」は、銃を向けている敵を前にして、自分たちは後ろに下がらなければならない。そんなことは、単純に考えても、難しいと分かる。
「撤退行動」のうち、敵と戦っている部隊が敵との戦いをやめて後ろに下がることを「離脱」といい、その後、敵から遠く離れていくことを「離隔」という。
この「離脱」は極めて困難な作戦だ。
なぜなら、陣地を放棄して後ろに下がることは、攻撃もできないし、壕から出て防護力がなくなるので、敵からの砲撃を受け損害が大きくなるからだ。
実際に撤退する場合には、撤退する企図を敵に察知されないために完全に秘匿する。そして、相手に一撃を与え、敵が怯んだすきに逃げるのだ。
しかし、そう簡単にできることではない。失敗すれば、総崩れになり、敵に陣地を占領されてしまう。
ハルキウ正面では、ロシア軍の防御部隊の撤退が整然と行われなかったので、混乱して防御が簡単に崩壊してしまった。
■2.撤退発表は罠にはめるための嘘か
戦史を見ると、離脱を気付かれずに後ろに下がって安全に退却できたという例は、旧日本軍がアリューシャン列島にあるキスカ島から、霧の中、撤退したことだけだ。
これも、作戦計画がすばらしかったことと、霧という気象に恵まれたからだった。そのほかに、撤退行動が成功した事例を私は知らない。
これまで嘘を言い続けてきたロシアなのに、「撤退する」ということだけを信じることはできない。
また、ロシア軍がこれまで戦略なく戦ってきたとしても、稚拙な戦いを行ってきたとしても、これから撤退しますとは絶対に言わないはずだ。
当然、何か悪だくみがあるとしか考えられない。
三国志の世界では、逃げると見せかけて敵を谷に引き込み、両方の山から矢を雨のように降り注ぎ、敵を殲滅するという戦がよくある。
ほかにも、撤退の行動とこれまでの情報とは異なっているものがある。
ロシア軍は、劣勢な東部に新たな戦力を投入せずに、南部へルソン州に投入している。また、都市へルソンのドニエプル河の南に陣地を構築している情報などである。
■3.ロシアはウクライナ軍を撃退できるのか
ロシア軍がへルソンを撤退するというのは、ドニエプル川からクリミア半島の付け根までの間(約100キロ)で防御戦闘を行うことであって、クリミア半島まで抵抗せずに後退することではない。
ロシア軍が、この防御戦闘で時間をかけて守り切るのか、あるいはウクライナ軍のドニエプル川渡河時の戦力分離に乗じて撃退する行動(反撃)を取るのか、注目すべきところである。
ウクライナ軍の侵攻予想図と戦闘の焦点(赤枠)
なぜなら、ロシア軍が反撃ができないのであれば、時間の経過とともに国境線まで押されていくし、反撃を行いウクライナ軍に大きな打撃を与えられれば、現状の接触線を保持することができるからだ。
このことを、へルソンからクリミア半島までの地形、これまでの戦闘の経過、ロシア軍の南部への増強、ドニエプル川以南での陣地構築、ロシア軍の損耗などの情報を総合して分析する。
(1)ウクライナ軍をへルソン市街地に引き入れて火力打撃する
へルソンの市街地はドニエプル川の北側にある。
ロシア軍のへルソンの守りは、後方にドニエプル川があるので、守りに失敗すれば、退路はなく、ロシア軍は殺傷されるか捕虜として捕まってしまう。
今のロシア軍では、へルソンを守り切る戦力と気概はない。ロシア軍としては、ウクライナ軍にいずれ占領されると考えているだろう。
ウクライナ軍がこの都市を占領しても、その南にはドニエプル川があるので、占領に引き続いて攻撃を続行することはあり得ない。
したがってウクライナ軍の攻撃はここでいったん止まる。
ロシア軍には、ウクライナ軍がへルソンに集結すれば、大量の砲弾、ミサイルを撃ち込んで撃破するという構想(火力弾幕攻撃)もあるだろう。
へルソンへの火力弾幕攻撃予想図(イメージ)
この時、市街地に対して、化学剤が入った砲弾を撃ち込む可能性は十分にある。
市街地はガスが滞留しやすいので、化学弾攻撃には有効だ。
また、サリンガスは揮発するので、化学剤を使用したという証拠の解明には時間がかかる。一時的に言い逃れができるのだ。
(2)渡河後、ウクライナ軍の戦力分離に乗じて火力弾幕で打撃(殲滅)
ウクライナ軍がへルソンを奪回後、ドニエプル川を渡河して東岸に渡る。
ウクライナ軍は、ロシア軍の抵抗を受けるが、東岸で橋頭保(先に渡河した部隊が、後続部隊が安全に渡河できる、引き続く攻撃の準備ができるために必要な地積)を構築する。
つまり、渡河したウクライナ軍は、ドニエプル川で第1線攻撃部隊と後続部隊が分断されることになる。
この地点に、ロシア軍が火力ポケットを作って、大量の砲弾、ミサイルを撃ち込めば、渡河して橋頭保を構成している部隊は大きな打撃を受けることになる。
このポイントでも、化学剤が入った砲弾や汚い爆弾を撃ち込む可能性は十分にある。
サリンガスの方が、誰が使用したのか解明するのに時間がかかるので、サリンガスを使う可能性が高い。
汚い爆弾は、核物質が地面に残ることから、発見され誰が使用したのか識別される可能性が高い。これだと、ロシアが世界の悪者になる。
ドニエプル川東岸への火力弾幕打撃予想図(イメージ)
(3)クリミア半島の付け根で火力弾幕で打撃(殲滅)
クリミア半島の付け根には、湖沼が点在している。このために、クリミア半島へ攻撃するには、湖沼がない西部の狭い通路を通らなければならない。
ロシア軍には、この地でウクライナ軍を止めて、停止しているウクライナ軍に対して、大量の火力を撃ち込んで撃破するという構想もあるだろう。
この場合も、攻撃部隊と後続部隊が分断されるので、各個に撃破される可能性が高まる。
この地での攻防は、クリミア半島が奪還されるかどうかの瀬戸際なので、小型で低出力の核兵器、化学砲弾あるいは、汚い爆弾で攻撃する可能性が高い。
クリミア半島付け根での火力弾幕打撃予想図
ロシア軍は、計画通りに撤退し、(1)から(3)までの方法で戦えば、敗北しない戦いができる。
本当の撤退で、へルソンからクリミア半島の付け根までの間の防御が崩れれば、クリミア半島での戦いになってしまう。
クリミアでの戦いでは、ロシア軍はどこからも戦闘支援を得られないことから、クリミア半島を奪還されてしまう。
クリミア半島がウクライナ軍に奪還された場合は、ロシアの国内からも、欧米からも、世界からもロシア軍の敗北と見なされる。
だから、ロシア軍のへルソン陥落、その後クリミア半島に至るまで、ただ単に撤退する可能性は低いのである。
■4.クリミア半島までの100キロが天王山
へルソン州でのロシア軍とウクライナ軍の戦闘では、6~9月末までは両軍はほとんど動きがなかった。
10月に入って、数日間でへルソンの北東部の右岸地域でウクライナ軍の攻勢が20~30キロほどあった。
その後、再び接触線の動きはほとんどなく、ロシア軍のへルソンの撤退発表(11月9日)の後、11月10日になって動きが出てきた。
これから、へルソンからクリミア半島までの約100キロの戦いが今後の戦況を占うものとなる。
天下分け目の決戦場と言ってもよい。
この地が、ウクライナ軍に簡単に占拠されることになれば、クリミア半島まで占領が早期に達成されることになる。一方、ロシア軍が守り切れば、クリミア半島はロシア領に残る。
ロシア軍は、化学兵器や汚い爆弾を使用するならば、この100キロの地で使う可能性が高い。
ウクライナでの戦いの中で、化学兵器等が使用される可能性が最も高まっている。小型で低出力の核兵器も使う可能性も出てきたということだ。
ウクライナ軍はドニエプル川を渡河しなければならない。渡河から橋頭保を確立するまでの戦いが最も危険な場面になる。
米国からの情報をもとに、ロシア軍の配備を確認し、ロシア軍の指揮所や弾薬庫を引き続き、長射程誘導ロケットや弾で攻撃し、化学兵器使用の情報収集に焦点をあてて行動するであろう。
■5.ロシアは戦争の山場に策を練って戦う
ウクライナとロシアの戦争は、これから最大の山場を迎える。
ロシアは、ここで敗北すればクリミア半島まであっという間に占領されてしまう。クリミア半島内では、兵站支援や関連部隊との協力が難しいからだ。
ロシア軍は、これまで大きな損害を受けてきた。しかしながら、ここで起死回生の戦いをしなければ、戦争全体の敗北になってしまう。
ロシアは、ここでどのようなことをしてでもウクライナ軍を撃破する行動を取ってくるだろう。策を練って、罠を仕掛けて作戦を実行してくるとみてよい。
ロシアがそうすることができず、勝利できなければ、敗北の道を転がり落ちることになる。
欧米諸国は、ロシアが化学攻撃等の罠を実行するかどうかに注目する必要があろう。
シリアでは、サリンが入った多連装ロケット弾が使用された。ロシア軍もこの砲弾を使用する可能性がある。
日本は、ロシアの化学攻撃に注目しなければならない。
そして、ウクライナ軍が化学攻撃を受ける可能性を「懸念」するだけではいけない。
日本は今こそ、ウクライナに軍事支援を行うべきだ。
ウクライナ軍に、化学防護マスク約1万個(2~3個旅団の兵員数分)や化学防護車(82式指揮通信車改良)数台を供与する時がきた。
あるいは、化学兵器禁止機関(OPCW)に化学防護車を提供してもいいのではないか。これは、武器の供与ではなく、人道支援だ。
ロシア軍のへルソン撤退を「罠」とみるか、「戦線の縮小(後退)」とみるか――。
罠であればロシア軍は勝利を追求していることであり、戦線の縮小であればこのまま敗北の道をたどることになる。
では、今回の撤退発表が「罠」か「戦線の縮小」か、あるいは「罠と縮小」両者なのか、南部でのこれからの戦いについて分析すると、西村氏。
戦っている最中に、撤退する前に「我々は撤退する」と敵に伝わるように公言する指揮官はどこにもいない。私は、聞いたことがない。
なぜなら、軍事作戦で最も難しいのが「撤退作戦」だからだと、西村氏。
「撤退行動」のうち、敵と戦っている部隊が敵との戦いをやめて後ろに下がることを「離脱」といい、その後、敵から遠く離れていくことを「離隔」という。
この「離脱」は極めて困難な作戦だと。
実際に撤退する場合には、撤退する企図を敵に察知されないために完全に秘匿する。そして、相手に一撃を与え、敵が怯んだすきに逃げるのだと、西村氏。
ハルキウ正面では、ロシア軍の防御部隊の撤退が整然と行われなかったので、混乱して防御が簡単に崩壊してしまったと。
これまで嘘を言い続けてきたロシアなのに、「撤退する」ということだけを信じることはできない。
また、ロシア軍がこれまで戦略なく戦ってきたとしても、稚拙な戦いを行ってきたとしても、これから撤退しますとは絶対に言わないはずだ。
当然、何か悪だくみがあるとしか考えられないと、西村氏。
ロシア軍がへルソンを撤退するというのは、ドニエプル川からクリミア半島の付け根までの間(約100キロ)で防御戦闘を行うことであって、クリミア半島まで抵抗せずに後退することではない。
ロシア軍が、この防御戦闘で時間をかけて守り切るのか、あるいはウクライナ軍のドニエプル川渡河時の戦力分離に乗じて撃退する行動(反撃)を取るのか、注目すべきところであると、西村氏。
ロシア軍は、計画通りに撤退し敗北しない戦いができる 3つの方法があると、西村氏が紹介されています。
しかし、本当の撤退で、へルソンからクリミア半島の付け根までの間の防御が崩れれば、クリミア半島での戦いになってしまうと。
クリミアでの戦いでは、ロシア軍はどこからも戦闘支援を得られないことから、クリミア半島を奪還されてしまう。
クリミア半島がウクライナ軍に奪還された場合は、ロシアの国内からも、欧米からも、世界からもロシア軍の敗北と見なされると、西村氏。
これから、へルソンからクリミア半島までの約100キロの戦いが今後の戦況を占うものとなる。
天下分け目の決戦場と言ってもよいと!
ロシアは、ここで敗北すればクリミア半島まであっという間に占領されてしまう。クリミア半島内では、兵站支援や関連部隊との協力が難しいからだ。
ロシア軍は、これまで大きな損害を受けてきた。しかしながら、ここで起死回生の戦いをしなければ、戦争全体の敗北になってしまう。
ロシアが化学攻撃等の罠を実行するかどうかに注目する必要があろうと、西村氏。
日本は今こそ、ウクライナに軍事支援を行うべきだと、西村氏。
化学兵器禁止機関(OPCW)に化学防護車を提供してもいいのではないか。これは、武器の供与ではなく、人道支援だと。
# 冒頭の画像は、ロシア軍の撤退を歓迎するヘルソン市民
アンズの紅葉
↓よろしかったら、お願いします。
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