Casa Galarina

映画についてのあれこれを書き殴り。映画を見れば見るほど、見ていない映画が多いことに愕然とする。

グエムル 漢江の怪物

2008-07-04 | 外国映画(か行)
★★★★★ 2006年/韓国 監督/ポン・ジュノ
「こんな怪物映画、見たことない。ソン・ガンホ最高!」


ハリウッドに対抗するために作られたモンスターパニック映画だと思っていた私は阿呆でした。ポン・ジュノの才能が見事に光る傑作。なぜ映画館で見なかったのだろうと、今ひどく後悔しています。従来のパニック映画のセオリーとは全くかけ離れた構成で、こんなに個性に満ちた怪物映画にはお目にかかったことがありません。

怪物に殺された人々の家族が公民館のような場所に集められ遺影を前に号泣したり、長男をバカにしてはいけないと父親が子供に説教したり、非常時にはアメリカのいいなりになってしまったり。随所に、同じアジア人としてのメンタリティに訴えかけてくるものがあります。これはハリウッド映画では絶対に味わえない感情です。加えて、薬の散布に反対して学生達がデモ活動を行うなど、韓国らしい描写が強烈なオリジナリティとなっています。

何より、ポン・ジュノらしい作風を、怪物映画と言うジャンルでフルに発揮できていることが驚き以外の何ものでもありません。例えば、怪物は一旦おいといて、主人公カンドゥにフォーカスしてみましょう。彼は勇敢に怪物と戦ったにも関わらず、娘が生きていると訴えても誰も耳を貸してくれず、ウィルス保持者として警察には追いかけ回され、しまいには病院でひどい目に合う。こんなにキツいブラックコメディってあるでしょうか。しかし、とことん間抜けな男を主人公に持ってくることで、極限に追い込まれた人間の描写が圧倒的にリアルなものになり、役人や軍人どもの横暴ぶりを笑いとして昇華させることができます。また、妙に間の抜けた設定だからこそ、その後迫り来る恐怖との落差がさらなる臨場感を生み出します。ライフルの弾の数を数え間違ったがために、我が父を恐怖に陥れてしまった、その切なさたるや…。

こうして主人公をとことんバカな奴に描くユルいムードを表面的に装いながらも、病院のビニールシート越しに不気味に映る顔のショットとか、怪物と併走して走るカンドゥだとか、力強くて印象的なカットは枚挙にいとまがありません。特に「殺人の追憶」でも多用されていた人物のアップ、とりわけ幾度となくカメラに迫られるソン・ガンホの表情が秀逸です。本当に彼は凄い役者です。ラストのアメリカ軍の発表を映すテレビのボタンを無造作に足の指で消すという何気ないシーンにも、ぐっと胸をつかまれます。ペ・ドゥナのラストカットもしびれました。このジャンルの映画で5つ星の作品は、後にも先にも、もう出てこないんじゃないか。そう思わされるほど、良かったです。