Casa Galarina

映画についてのあれこれを書き殴り。映画を見れば見るほど、見ていない映画が多いことに愕然とする。

人間蒸発

2012-01-09 | 日本映画(な行)
★★★★★ 1967年/日本 監督/今村昌平

「唯一無二の世界」

今村作品が好きだ。
ねっとりと蠢く人間模様。反して、鮮烈なカットが屹立する映像。
本作は、ドキュメンタリーなんだけども、凄い。凄すぎる。
ドキュメンタリーって何だ?創作との境界はどこにあるのだ?
今、こんなの撮れないよね。プライバシーも何もあったもんじゃない。
見終わってからいろんな思いが交錯して、頭の中がぐちゃぐちゃ。

物語は当初行方不明になった婚約者を探す早川佳江という女性を
追いかけるドキュメンタリーとしてスタートする。
するんだけれども、事態はとんでもない方向に進んでいく。
行方不明になった男性を追いかけるはずが、
早川佳江という女性自身の心の闇がだんだん浮き彫りになってくる。
姉との確執、そして婚約者は姉と通じていたのではないかという疑い。

そして、レポーターに扮する露口茂に対して、
なんとその女性が恋心を抱き始める。
その揺れるさまをカメラは如実にとらえはじめる。

「この被写体は面白い」今村監督が思い始めたのは果たして撮影期間中であったのか。
それとも、当初からこうした狙いをもって取り始めているのか。

和室のひと部屋で心の内を切々に訴える早川佳江。
ところが、監督のひと声で、彼女の周りの壁があっという間に取り払われる。
カメラがどんどん引いてゆくとなんとそこはセットだった。

撮影されるという立ち位置が決まったら、
撮られし者は誰もが女優になってしまうのか。
カメラを構える。そう決まった時から撮影者は貪欲に対象者をえぐる運命なのか。

嘘と真の境界が果てしなく曖昧になっていく。
今村監督にしか描けない世界に圧倒される。