落穂日記

映画や本などの感想を主に書いてます。人権問題、ボランティア活動などについてもたまに。

うちに帰ろう

2009年01月18日 | movie
『戦場のレクイエム』

原題『集結號(撤退ラッパ)』。
国共内戦でも激戦のひとつに挙げられる1948年の淮海戦役の史実を基に描いた悲劇。
団長劉澤水(胡軍フー・ジュン)の命令で旧炭坑の防衛に就いた谷子地(張涵予チャン・ハンユー)だが、戦闘中に聴力を失い撤退のラッパを聞き逃してしまう。ラッパが聞こえるまで最後のひとりになっても戦い続けろという指示を守り部下をすべて失った彼は、戦後、自分の隊が失踪扱いとされ遺族が何の補償も受けていないことを知って驚愕する。

いやー。凄かった。
これねー。観るべきですよ。凄いですよ。マジで。中国映画もついにここまで来たのねー、とゆー妙な感慨が味わえます。マジすげーっす。
とりあえず『ブラザーフッド』のスタッフが再集結したという映像が凄い。もう無茶苦茶な大迫力。監督は『プライベート・ライアン』を目指したそーですが、相当いい線いってると思います。リアリティは負けてません。お世辞抜きで。これ撮影は呂楽(ルー・ユエ)なんですねー。『美人草』『十三の桐』で既に映画監督としても活躍しておられる方ですね。現在公開中の『赤壁』にも撮影監督として参加してます。
けどこの映画が凄いのは映像だけじゃない。シナリオも凄い。原作はごく短い短編小説だったそうだけど、それを部下と自分の名誉を回復しようと何年も執念を燃やし続ける老兵の長い苦闘の物語として、くどくしつこく激しくふくらませてある。ラッパが聞こえなかったことを悔いて戦場に死に場所を求める主人公の屈折、国を信じて戦いながら裏切られた部下たちへの消えることのない愛、主人公ひとりの心の地獄を丁寧にリアルに描写することで、戦争がどれほど無益なことかを力強く訴えている。

国共内戦は中国人同士で血で血を洗った悲惨な戦争だが、その背景には第二次世界大戦後に激化した冷戦構造の代理戦争という意味あいもある。国民党軍はアメリカからの支援を受けて旧日本兵まで動員していたし(『蟻の兵隊』)、共産党軍は撤退した日本軍の装備を押収しソ連の支援も受けていた。
つまり同じ民族同士の内戦でありながら、そこで飛び交っていた砲弾は外国から流入したものだったというわけだ。結果的には中国では共産党軍が勝利して内戦はいったん終結するが、米ソ対立の代理戦争はその後朝鮮半島に持ち越された。未だに休戦状態のままとなっている朝鮮戦争である。映画にも中盤に登場する。
大国は外から軍備を注入し、同じ民族同士が親子兄弟で殺しあうのをただ見ていた。なので映画に登場する中国人たちは誰も悪くない。けどほんとうに、いったん戦争になってしまったら誰が良いも悪いもない。殺しあいは殺しあいでしかない。名誉もなにもない。
だからこそラストシーンは決して華々しくは描かれない。ただただ悲しい。

最後にテロップで谷子地の生い立ちが語られるが、そこになぜ彼があれほどまでに軍隊にこだわったのかが集約されているような気がした。
彼はほんとうに軍隊を、部下を愛していたのだろう。愛さずにはいられなかったのだろう。そんな人もいる。もしかしたら彼は、戦争によって生きた運命の人だったのかもしれない。

ゼロから作り出せ

2009年01月18日 | movie
『ワンダーラスト』

原題『FILTH AND WISDOM(堕落と叡智)』。
ロンドンでミュージシャンを目指すウクライナ系移民AK(ユージン・ハッツ)は、パートタイムでSMの「ご主人様」をしたり、階下に住む盲目の詩人フリン教授(リチャード・E・グラント)の雑用をして日銭を稼いでいる。ルームメイトで目の出ないバレリーナ・ホリー(ホリー・ウェストン)は家賃が払えなくなってストリップバーで働くことに。同じくルームメイトのジュリエット(ヴィッキー・マクルア)は薬剤師として働きながらアフリカで恵まれない子どものために活動することを夢見ているのだが・・・。

現在世界で最も成功している女性ミュージシャン・マドンナの初監督作品。
おもしろかったです。カメラワークやプロダクションデザインが実にオシャレで、ワンシーンワンシーンがまるでファッショングラビアのように美しい。音楽に疎いぐりでもいちいち踊りだしたくなるくらい素敵なサウンドトラック。なによりも登場人物のキャラクターがとっても魅力的に表現されていて、ひとりひとりがとにかく愛すべき好人物として描かれている。みんな可愛いし、健気。
ただ初監督だけあって青さはどうしても気になる。とりあえずシナリオがひじょーに大味(爆)。人物の内面描写がかなりおざなりで、展開に説得力がまったくない。完全にご都合主義で物語がほいほい進んでいってしまうので、観ていてちょくちょく「おいおい」とツッコミたくなるのも正直なところではある。

主役のハッツは彼にあわせてアテ書きされたというだけあって完璧で強烈で、彼が画面からこちらに向かって淡々と語る言葉には異様な力がある。フリン教授が書いたという設定の詩も良い。
だからまあ総合すれば観てソンという映画ではないし、さすがマドンナと思わせるだけの作品には仕上がってはいます。
サントラがあれば欲しかったけど、残念ながら映画館では販売してなかった。なにゆえー?