落穂日記

映画や本などの感想を主に書いてます。人権問題、ボランティア活動などについてもたまに。

ちゃんとやれよ

2009年01月24日 | movie
『ポチの告白』

地域課の巡査から念願の刑事課に昇進した竹田(菅田俊)は結婚5年めにして子どもを授かり順風満帆の刑事生活を始めるのだが、ある人質事件で不正な捜査を指示された証拠を北村(井田國彦)という新聞記者と草間(川本淳市)というチンピラにちらつかされ・・・。

んー。
力作なんだよね。それは認めるよ。すごい頑張ったと思うよ。つくり手の熱意はわかるんだよね。いいたいこともやりたいこともまあわかるよ。よくここまでやったなって労ってあげたい気持ちに嘘はないです。
けどねー。ツッコミどころありすぎ。コッテコテに満載っす!バリバリっす!
まず長い。長過ぎます。これ195分もいらんやろ。せいぜい130分、長くて150分で充分です。全体にシナリオが無駄に冗長で緊張感が足りないんだけど、とくに後半、主人公が逮捕された後のあの長さはいったい何?意味がわからないあるよ。やりたいこと全部やって全部完パケにいれこむのはもうやめよーよー。
それから、どのパートも抽象的過ぎ。具体性がなさ過ぎ。それならそれでもっとさくっとぱりっとメリハリの効いた構成にすりゃあいいのに、こんなに無意味にダラダラ長くちゃあ誰でも観てて飽きますて。中盤以降で客席全体に「まだやんのかよ」的な空気が充満して来て、画面で熱演してる役者が可哀想になってしまったよ。どんだけ熱演してても具体性が薄いから説得力もないし、そもそも主役ひとりをいい人=被害者にしたてて観客の同情を買おうって手法が前近代的過ぎて無理。
映像的にもかなりイタい。デジタル撮影はいいんだけど画面が暗過ぎて観てて超目が疲れるし、音響設計がチープなのか録音状態がボロいのか、台詞が聞き取れない箇所も多過ぎる。

そしてトドメは竹田の後輩・山崎刑事(野村宏伸)の出自の設定。ネタバレになるので伏せますが、あの設定は完璧いらんやろ。ほぼ脈絡ないやんけ。しかも辻褄あってない。あの出自で前職が「銀行」はあり得ません(笑)。今はどーか知りませんが、少なくともあの世代ではないね(断言)。彼はその出自を上司(出光元)のコネで捨てたらしーけど、そこもべつに全然いらん設定ですよ。
ダメ押しは良心に負けたのかなんなのか主人公が勝手に自滅してくのに対して、彼が組織の腐敗に脳天までどっぷり浸かった邪の道をどんどん突き進んでいくという展開がその出自と結びついて、「結局こんなにまで悪くなれる人間は日本人じゃあり得ない」といっているみたいに見えてしまうこと。もしかしたら製作者は誰もそんなこと意図してないかもしれないけど、ぐりにはそう見えたし、他にもそう思う人はいっぱいいると思います。
ええの?それで?あの設定ひとつで、ここまで情熱かけて訴えようとしたメッセージが全部台無しになっちゃってるんですけど。

キャスティングはすごくよくて、とくに主役の菅田俊と後輩役の野村宏伸の対比が素晴らしい。デカくてコワモテの菅田が実直なおひとよしで、華奢で繊細そうな野村が官僚体質で冷酷なキャリア志向とゆー、見た目とのギャップがいい。
主人公の妻を演じた井上晴美がこんなにいい女優だとはしらなんだ。何が起きても泰然自若としたしたたかに強い女性役がすごくハマってました。
他の出演者はほとんどが無名の人ばっかりなんだけど、それがこの内容にあっててよかったです。リアルで。
初日とゆーことで初回に舞台挨拶があってロビーに関係者一同が集まってプチ同窓会状態になってて(完成から公開まで4年かかっている)、客席にも出演者がすっごいいっぱいいました。登場人物多いからね。つか客層が極端に男性寄り、それも中高年ばっかりで会場の空気が異様な感じ。場内に加齢臭ただよってた(爆)。ジャーナリストとか左翼活動家とか、そのスジ系の人もいっぱい来られてました。
ぐりは舞台挨拶の直後の回を観たんだけど、上映前にたまたますぐ傍で監督が囲み取材中だったのを一部盗み聞きしたのでメモっときます。
「海外での配給権は販売済みなので、日本での公開が始まって成績や評価が出れば各国でも公開されると思う」
「最初の一般上映はゆうばり国際ファンタスティック映画祭(2006年)で観客投票で2位を獲得した」
「公開が遅れたのは製作当初のプロダクション2社が相次いで倒産したから(ライブドアショックの煽りも受けたらしい)」
「噂になっている公権力の公開妨害などは残念ながらない。あればかっこよかったんだけど」
「ただ、名古屋の某映画館に所轄署から『おたくで例の映画、上映しないだろうね?』という電話はかかって来たらしい(『靖国』状態だね)」
「完成後に警察関係者から指摘のあった箇所は編集で修正してある。いちばん観てほしいのは警察関係者」などなど。

なんかいっぱい文句は書いたけど、今年しょっぱないちばんの問題作でもあるし、観といてソンはないと思います。ってか観るべき映画ではある。
けどそれだけに、もっとなんか、ちゃんとやってよ!とゆー悔しい思いも強く感じましたです。あーあ。


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