「親の七光り」ほどありがたいものは、この世にないでしょう。しかしそれは、両刃の剣でもあるわけですが、本日はそんな1枚を――
■Introducing Doug Raney (Steeple Chase)
名ギタリスト=ジミー・レイニーの息子である、ダグ・レイニーのデビュー盤ですが、正直言うと、参加メンバーに私の大好きなデューク・ジョーダン(p) の名前を見つけて入手したのが、本当のところです。つまり、まったくダグ・レイニーには期待していなかったのですが、これが父親譲りの流麗なスタイルに新感覚をプラスして再生させたという、なかなか達者なギタリストでした。
録音は1977年の9月、演奏メンバーは、Doug Raney(g),Duke Jordan(p),Hugo Rasmussen(b),Billy Hart(ds) という、新人・ベテラン入り乱れての興味深いセッションになっています。
まずA面1曲目は、コルトレーンの名演でモダンジャズの聖典ナンバーとなっている「Mr.P.C.」で、定石どおりのアップテンポで演奏されますが、ダグ・レイニーのギターは全く淀みないフレーズを連発してアドリブ・ソロを組み立てています。こういうスタイルは、一般に冷徹な印象を与えるのですが、しかし、ここでのダグ・レイニーは自らの若い情熱の迸りを随所に滲ませて、熱気の撒き散らしています。またベテランのリズム隊は、もちろん的確なサポートで、特にビリー・ハートのドラムスは快感です。そしてお目当てのデューク・ジョーダンは、マイナー・スケールを巧に入れ込んだブルースの情念を聞かせてくれるのでした。
一転して2曲目は、有名スタンダードの「Someone To Watch Over Me」をしっとりと演じますが、ここでのダグ・レイニーのコードワークやキー・スケールの処理等は父親ゆずりの味があって、ニヤリとさせられます。
しかし続く「Bluebird」は正統派ハードバップ・ブルースに挑戦というか、スローな展開でブルースを模索するダグ・レイニーが憎めません。もちろん上手くいっていませんが、それならっ、とばかりに途中から倍テンポでジャズにしてしまうあたりは、なかなかの奮闘ぶりです。そしてそれを後で眺めつつ、ベテランの味を出しまくるのがデューク・ジョーダンのビバップ真髄のピアノというわけです。
そこでA面ラストでは、これも有名なスタンダード曲の「The End Of A Love Affair」が急速調で演じられることになりますが、流石にこのテンポではダグ・レイニーが本領発揮の早弾きフレーズを連発して盛り上げてくれます。ところがリズム隊も負けていません。デューク・ジョーダンを先頭に、ドラムス&ベースが全くのマイペースでありながら、スリル満点の演奏を繰り広げるのです。若い者には負けられんっ♪
で、B面トップは哀愁の名曲「Casbah」が、デューク・ジョーダンとのデュオで、じっくりと奏でられます。テンポはスローなので、ひとつ間違えると退屈の極みになるのですが、ここではそれがギリギリのところで保たれた緊張感がたまりません。ムード音楽として聴き流すことも可能ですが、途中から思わず耳がいってしまう演奏になっています。
そして良いムードになったところで、ギター奏者にはお約束のナンバー「I Remember You」が登場♪ これは父親のジミー・レイニーも十八番ということで、やっぱり随所で親子が同じフレーズを弾いていますが、まあ、そのあたりは一子相伝の必殺技ということで♪
そのあたりは次の「Like Someone In Love」でも同様ではありますが、やはり聴いていて楽しいという本音は隠せません。ちなみにここでの演奏はベースとのデュオなので、ダグ・レイニーのコードワークの秘密が聞かれます。
こうして迎える大団円は、これぞハードバップという名曲の「Unit 7」で、これはウェス・モンゴメリーの極めつきの名演があるので、ギター・プレイヤーは苦しみを承知で挑戦するのでしょうが、やはり苦戦は免れていません。しかし途中では新感覚のフレーズも繰り出して、精一杯の熱演には好感が持てます。また基本スケールを応用した手の込んだフレーズにも、思わずギターを手にしてコピーしたくなるような情熱が溢れています。
ということで、これはウダウダと理屈をつけず、素直に聴いて嬉しいアルバムだと思います。若いリーダーを盛り立てるベテランのサポートは最高ですし、ダグ・レイニー本人も父親からの薫陶を胸に独立せんとする意気ごみを存分に発揮していると思います。
そして実際、この後のダグ・レイニーは地道な活動ではありますが、モダンジャズの王道を行くスタイルで何枚もリーダーを出して行きます。その中には我国のジャズ喫茶で人気盤となった「Cuttin Loose」という作品もありますので、機会があれば、このアルバムと共に聴いてみて下さい。
例によって、ジャケ写からネタ元につなげてありますが、ちなみに現行CDにはボーナストラックとして「On The Green Dolphin Street」が入っています。これまた軽いながらも楽しい快演になっていますよ。