OLD WAVE

サイケおやじの生活と音楽

ぬる~い1枚

2005-12-14 16:55:19 | Weblog

降り続いていた雪も、どうやら峠を越したようです。しかし仕事はこれからが山場……。全く休めなくなりそうですし、なんか今年は、やけに寒さが身に染みるのです。こういう時はヌル目の温泉にでも浸かりたいような、あるいは熱いもやしそばを食いたいような……。

結局、どちらも実現しないので、昼飯時の1枚はぬる~いアルバムを――

The Rajah / Lee Morgan (Blue Note)

ジャズは瞬間芸で、しかもモダンジャズは個人技の応酬が醍醐味ですから、独善的でも良いソロさえとれれば全てが許される部分があるのですが、それでは名盤と呼ばれるアルバムが出来上がらないのは、言わずもがなです。

ただしジャズはリズム隊がある程度しっかりしていれば、それでけっこう聴かせることが出来るので、つまりそこに突出した人が入っていれば、聴き手は満足してしまうことがあります。例えばピアノ・トリオが人気なのは、そのあたりにも要因があるのです。

で、このアルバムですが、主役のリー・モーガンに全く精彩が無いのに、それが逆にホノボノムードを生んでしまったという、憎めない仕上がりになっています。ただし発売されたのは、実際に録音されてからかなり年月が流れた1980年代に入ってからでした。

メンバーはリー・モーガン(tp)、ハンク・モブレー(ts)、シダー・ウォルトン(p)、ポール・チェンバース(b)、ビリー・ヒギンズ(ds) という、お馴染みの5人組で、録音は1966年11月29日とされています。

 この頃のリー・モーガンはコンスタントにレコーディングを行っていましたが、その出来は振幅が大きく、この日はほとんど絶不調に近いものです。つまり本来の持ち味である奔放で緊張感のある演奏になっていません。相方のハンク・モブレーも、それに調子を合わせたかのような、ノンビリムードが強く出ています。

しかしリズム隊はそれに反して躍動的♪ 特にシダー・ウォルトンとビリー・ヒギンズは絶好調なのです。

まずA面1曲目の「A Pilgrim's Funny Farm」は愛らしいテーマをモードで解釈した素敵な曲ですが、肝心のリー・モーガンの気抜けぶりが目立ちます。ハンク・モブレーもなんとなく底が見えない演奏ですが、リズム隊の躍動感が最高で、シダー・ウォルトンのソロ・パート、つまりピアノ・トリオになってからが素晴らしい限りです。ビリー・ヒギンズのシンバル・ワークも流石♪

2曲目の「The Rajah」もその傾向が強く、リー・モーガンが十八番のエキゾチックなファンキー・ナンバーですが、全く調子が上がりません。ただし擬似ジャズロックのビートを叩き出すビリー・ヒギンズが快調なので、先発でソロを取るハンク・モブレーはどうにか面目を保っています。しかし続くリー・モーガンが危なっかしいというか、音色に輝きが無く、アドリブにも閃きが感じられません。それゆえにここでもビリー・ヒギンズが軽い呻き声を交えて懸命の煽りを聞かせてくれるあたりがスリル満点で、さらにシダー・ウォルトンのピアノがそれに同調しています。それにしてもビリー・ヒギンズは素晴らしい! 最後の盛り上げは彼の存在なくしては有り得なかったと思うほどです。

そしてB面は軽くスイングする「Is That So」でスタートしますが、それでも寝ぼけ気味のフロント陣に対して、先発でソロを取るシダー・ウォルトンが快調です。しかし続くハンク・モブレーは歌心を忘れた吹奏に終始し、リー・モーガンも精彩が無いのです……。

しかし2曲目の「Davisamba」は、面目躍如というか、ボサ・ロックのビートに乗ってリー・モーガンが十八番のフレーズを連発! ここで聴かれるようなリズムに対する独特のノリが出ないと、リー・モーガンとは言えません。それに刺激されたかのようにハンク・モブレーもかなり過激なフレーズを交えて熱演です。しかも安らぎを忘れていないアドリブの組立を披露するのです。もちろんバックのリズム隊は絶好調と言いたいところですが、何故か今度はシダー・ウォルトンのソロがイマイチという、ちぐはぐさが残念です。

続く3曲目は多分シャンソンの「What Not My Love」が優しく演じられます。ここでは、幾分かすれ気味のリー・モーガンのトランペットが結果オーライの出来で和みますし、ハンク・モブレーも良いムードを演出しています。シダー・ウォルトンの歌心が滲み出るアドリブも秀逸♪

そしてオーラスはスタンダード曲の「Once In My Lifetime」が、ハードなアレンジで演奏されます。ここではまず先発のハンク・モブレーが、いつもの調子を取り戻してファンを喜ばせます。リー・モーガンもなんとか及第点ですが、それはバックで煽るビリー・ヒギンズの重たいビートによる貢献が大きいところで、待ちきれずに自分のパートに入ってしまうシダー・ウォルトンの若気の至りが憎めません。

それほどこのセッションにおけるビリー・ヒギンズは素晴らしいということで、この人を聴くためのアルバムかもしれません。後年、ビリー・ヒギンズとシダー・ウォルトンはいっしょにレギュラーバンドを組んで活動することが多くなるのですが、相性の良さはここでも存分に発揮されており、いささか弛んだフロントの2人は足を向けては寝られないところでしょう。そしてリアルタイムで発売されず、お蔵入りしたのもムベなるかなです。

しかしこのホノボノムードは捨てがたい魅力があり、最近の私のように疲れ気味の状態で聴くとズルズルと惹き込まれます。

このアルバムは数年前にCD化されましたが、残念ながら現在は廃盤らしいです。しかし演奏が演奏なので中古でも安値が付いていると思われます。否、それ故にもう再発されず、貴重盤になってしまうのでしょうか?

コメント
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