OLD WAVE

サイケおやじの生活と音楽

見かけによらず

2005-12-27 16:05:39 | Weblog

あぁ、本日も雪の嘆き節……。もう、沢山ダァ~!

しかし日曜日にいっしょにやって来た家族や親戚は大喜びで、本日も午前中からスキー場へ行ったようです。独り残された私は、もちろん仕事……。あぁ、虚し……。

でも、除雪要員がいるのは大助かりでござんすよ。

ということで、本日の1枚は――

Fantasia / Kenny Drew Trio (Baystate)

ケニー・ドリューはモダンジャズ創成期から活躍する黒人ピアニストで、おそらく我国ではビル・エバンスやキース・ジャレットと同格に有名な存在だと思います。

それはジャズがロックに対抗すべく、フュージョン化していった1970年代に、その反動として欧州を中心に繰り広げられたハードバップ・リバイバルの波で再評価されたことをきっかけに、リーダー盤を多数吹き込み、中でも日本のレコード会社によって製作された一連のアルバムは、その美味しい味付けで大ヒットし、人気を確立したのです。

そのミソは、本物のジャズでありながら、とても聴きやすいスタイルの演奏に徹していたことで、もちろん演目は有名スタンダート&人気ジャズ曲が中心でした。当然、演奏そのものもお約束のフレーズやミエミエのスタンドプレーが盛り込まれていたのです。

こういうところは、聴いていて確かに安心感と心地良さに満ちていましたが、硬派なジャズファンからは、ある種の軽蔑の対象になっていたのも、また事実でした。

ところがケニー・ドリューは、けっして演奏に手を抜いていたとか、安易な姿勢で臨んでいたとかいう部分は、それほど無かったと私は思います。もちろん録音当日のコンディションの問題はあったでしょうが、常に平均点以上の出来栄えの作品ばかりだと思います。

まあ、そのあたりが、ある程度聴きこんでいるファンには面白くないところなのですが、さて、このアルバムは、そうした作品群の中では特異とも思える硬派な内容になっています。

特にタイトル曲でもあるB面1曲目の「Fantasia」は、暗黙の了解でトリオ全員が疾走した、この時期では珍しいほどのモロ・ジャズです。メンバーはケニー・ドリュー(p)、ニールス・ペデルセン(b)、エド・シグペン(ds) という言わずもがなの名人トリオ、録音は1983年6月とされています。

で、私は当時、ジャズ喫茶でこの曲を初めて聴いた時、これが、あの、ケニー・ドリュー・トリオか……!? と驚愕した思い出が今も鮮烈に残っています。なにしろ出だしから不吉な雰囲気に満たされたペデルセンのベースに導かれ、ケニー・ドリューが儚くも淡い夢のようなテーマを弾き始めるのです。もちろんこの曲はケニー・ドリューのオリジナルで、一転してエド・シグペンの高速シンバル・ワークに煽られて、演奏は過熱したアドリブ・パートへ突入していきます。そこではペデルセンの混濁した心情吐露というようなピチカート・ソロが驚愕物で、続くケニー・ドリューのピアノも、媚びたフレーズを廃してハードにスイングしており、全く激情的です。そしてクライマックスでは、エド・シグペンの想像力豊かなドラム・ソロが展開されるのでした。

ということで、これは聴いていてかなり疲れる演奏ですが、それを癒すのが続く和みのスタンダート曲「Dream」です。このホッと一息の瞬間が、このアルバムのハイライトでしょう。実際、私はこの展開が大好きで、この2連発だけ聴いて満足するほどです。

う~ん、それにしても、この歌心溢れる演奏は流石です♪ 実はこういう部分はケニー・ドリューの最も魅力的なところですから、アルバム製作時には、そこばかりが狙われたレコードが出来てしまうわけです。ただし、そういう方向性だけでは物足りないもの、また確かで、それゆえにケニー・ドリューは軟弱! と決めつけられてしまうのです。

そのあたりのバランス感覚がこのアルバムでは絶妙で、例えばA面冒頭に収録された「Flight Of Fancy」では、いきなり思わせぶりなケニー・ドリューのピアノがあり、創造的なペデルセンのベースに繋げ、さらにトリオ3者のインタープレイを楽しめるというように、密度が濃いうえに聴きやすい演奏になっています。

またお約束で演奏している有名スタンダート曲の処理も、例えば「いつか王子様が」で聴かれるように、今回はかなりハードエッジな部分が目立ちます。それは当に意表を突かれる思いで、好例のソフトタッチのジャケットに騙されて軽んじてしまうのは勿体無い隠れ名盤だと思います。

ただし残念ながら現在は廃盤中のようですね。ジャズ喫茶でリクエストする時はB面がオススメです。

コメント
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