OLD WAVE

サイケおやじの生活と音楽

熱い思惑は外れ気味

2005-12-04 15:03:41 | Weblog

仕事で目をかけていた若い者が、最近、あんまりつまらないミスが多いので注意したところ、ついに先週から出てこなくなったので、自宅へ様子を見にいってみると……、というところから、まずは本日のBGMはこれと決めました――

Miles Davis & Milt Jackson (Prestige)

マイルスの諸作の中では地味な作品ですが、私は大好きな1枚です。

録音は1955年夏ですから、ハードバップ真っ盛りの熱い演奏、といいたいところですが、実際に熱かったのはセッションの現場でした。

メンバーはマイルス・デイビス(tp) 以下、ジャッキー・マクリーン(as)、ミルト・ジャクソン(vib)、レイ・ブライアント(p)、パーシー・ヒース(b)、そしてアート・テイラー(ds) という、何れ劣らぬ剛の者ですから、その演奏が悪いわけがありません。

まずA面1曲目の「Dr.Jackle」は幾何学的なテーマが煮え切らない不思議さを、メンバー全員がアドリブ・パートで見事に晴らしていくというジャッキー・マクリーンの名曲で、特にマイルスがモダンジャズの雰囲気をクールに表現していて秀逸です。もちろんマクリーンもいつものギスギスした吹き方で対抗し、レイ・ブライアントは小粋なブルース・フィーリングを披露、そしてミルト・ジャクソンはビバップの真髄を聞かせてくれるのですが……。

続く2曲目の「Bitty Ditty」はマクリーンが抜けた演奏で、テーマを吹奏するマイルスが幾分へタレ気味なのが気になります。アドリブもやや危なっかしく、似たようなフレーズばかり吹いています。それでもこれがOKテイクになったのは、リズム隊の好演によるもので、特にレイ・ブライアントは好調です。またミルト・ジャクソンは完璧♪

そしてB面に入っては、再びマクリーンが参加した「Minor March」が溌剌としています。この曲はマクリーンが自分のステージでも度々演奏する十八番で、ここでの先発ソロでもギスギスとした刺激的なフレーズを連発して盛り上げます。また、それを受け継ぐミルト・ジャクソンもアップテンポの中に歌心満点のアドリブ・メロディを展開させて、これも素晴らしく、リズム隊との駆け引きも満点です。肝心のマイルスは、またしても出だしでヘタレ気味になりますが、なんとか持ち直して最後まで駆け抜けて行きますが、やや纏まりに欠けているようです。しかも続くレイ・ブライアントが素晴らしいのですから、このリーダーの情けなさは、どういうことでしょう。

しかし最後の「Changes」でマイルスは汚名返上の名演を聞かせてくれます。この曲はレイ・ブライアント作曲による哀愁の名曲で、作者によるムード満点のピアノのイントロからミルト・ジャクソンのバイブラフォーンが見事に余韻が残るテーマを設定し、そのまま最高のソロを展開していきます。するとそれを受け継いだマイルスが、唯一無二のミュート・プレイで聴き手を酔わせます。当にこれぞ、マイルス! という良い味を出しまくりです。

演奏のテンポもマイルスにはピッタリで、得意のキメのフレーズも鮮やかです。ちなみにマイルスは歴史に残るジャズ・トランペッターですが、テクニックやアドリブの閃きの点では、最高の人では無く、むしろ、幾つかのストック・フレーズやキメ、さらに思わせぶりな吹き方が特徴的です。しかし、その取捨選択が絶妙で、つまりセンスで勝負するタイプですから、この「Changes」などはそのあたりを存分に楽しめる名演になっています。

ところで、この曲にもマクリーンが参加しておらず、それはこの日のセッションでマイルスと喧嘩の挙句、途中で帰ってしまったからだそうです。マイルスの喧嘩セッションとしては、セロニアス・モンクとのクリスマス・セッションが有名ですが、それは後世の作り話的な側面が強いものです。しかし、この日のマイルスとマクリーンの喧嘩は本当で、原因は自分だけがマイルスから酷く怒られたことだったとか……。

ですから、この日以降、マクリーンとマイルスは共演しておりません。A面1曲目のマイルスの好演からして、なんとも勿体無く、もっと一緒の演奏を残して欲しかったところですし、2&3曲目のマイルスの不調がそのあたりに原因があるとしたら残念です。しかしその災いを福に転じさせたのが最後の「Changes」という見方も出来るですが……。

一方、マクリーンはこのセッションの直後にジョージ・ウェリントン(p) のバンドに入って大ブレイク! リーダー盤も多数吹き込んでいくのですから、それは意地の成せる技だったのかもしれません。そのあたりはマイルスとしても、マクリーンの初レコーディングは自分のセッションに起用したものだった事等々、なにかと目をかけていた存在だったので、複雑なものがあったと思います。ちなみに、この時から8年後、マイルスはマクリーンのバンドに在籍していた天才少年ドラマーのトニー・ウイリアムスを強引に自分の所へ引き抜くという事件も起るのですが……。

ということで、ここで冒頭の話に戻ると、私はマイルス・デイビスでは無いけれど、ちょっと怒っただけで萎れてしまう若い者に、何のために私が目をかけていたのか、ちょっと理解不能なところがあります。ただし、私は「ちょっと」と思っている怒り方が、他の者の感じ方では、かなり厳しくビシリと痛い所を突いていたという意見もあります。

で、本日、自宅へ行ってみると、何と女と一緒でした。まあ、分からなくも無いし、それは個人の自由ですが、願わくばジャッキー・マクリーンになって欲しいところです。

明日からは仕事に来いよ♪

コメント
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