明け方からの冷たい雨が、7時頃に雪に変わりました。一面白くなった景色を見ながら車を運転していると、思えば遠くに来たもんだ……、と思います。カーステレオでは山下達郎を聞いていますが、しかし、あえて本日は――
■Elvin Jones Live At The Lighthouse (Blue Note)
もしも私がジャズ喫茶を開けるのなら、その開店一発目に鳴らしたいのが、このアルバムです。
実際、これは1970年代ジャズ喫茶の人気盤で、特に大学のジャズ研とか、あるいはプロを目指しているサックス吹きにとっては聖典の1枚でしょう。
メンバーはリーダーのエルビン・ジョーンズ(ds) 以下、デイブ・リーブマン(ss,ts,fl)、スティーブ・グロマスン(ts)、そしてジーン・パーラ(b)、録音は1972年9月、LAのライブハウス「ライトハウス」での実況盤ということで、熱い熱い演奏が2枚組LPにギッシリ詰まっているのです。
まずA面全部を使っての「Fancy Free」が最高の素晴らしさです。この曲はロックビートを大胆に取り入れることが出来るので、この当時、オリジナルのドナルド・バード(tp) をはじめ、グラント・グリーン(g) の快楽バージョンが有名ですが、この演奏は絶対です!
なにしろエルビン・ジョーンズがロックもジャズもアフロ・リズムまでも取り込んだポリリズムを敲き出し、おまけにジーン・パーラの極太ベースが強烈なラインを絡ませて生み出す激レア・ビートに乗って、フロントのサックス陣が大暴れするのです。
特にリーブマンのソプラノ・サックスによるソロは、どこまでもウネウネクネクネ屈折しながら突っ込んでくるので、それを煽るエルビンのドラムスも半端では無い凄さがあります。中でも5分目あたりから異常に挑発的なフレーズで切り込んでくるリーブマンに対して、6分20秒目あたりで怒り頂点の反撃をするエルビンのドラムスは恐ろしい! しかし、それでも攻撃の手を緩めないリーブマンは本当に怖いもの知らずの勢いがあり、7分30秒目あたりからはグロスマンも引きずり込まれて自分のソロ・パートに入るところは最高です♪ もちろんエルビンも大爆発するのですが、この頃にはジーン・パーラのベースもやりたい放題ですから、たまりません。もう、この1曲だけで、このアルバムの価値があるというもんですし、これが大音量で鳴っていた当時のジャズ喫茶の熱気を、ご想像下さいませ。何度聴いても凄いとしか言いようのない、畢生の名演だと思います。
その熱気はB面にも引き継がれ、1曲目の「Sambra」はタイトルどおりにサンバのリズムを使った楽しい演奏ですが、その根底は限りなく黒いビートが渦巻いています。なにしろ先発のリーブマンのソロではラテンリズムだったものが、グロスマンのソロの時には激烈な4ビートに変化するのですから、当に天変地異なノリは強烈です。このあたりは往年のコルトレーン・カルテットの夢よ、もう一度的な、つまりジャズ者にとっては最高の楽しみでもあります。もちろんグロスマンも熱く燃えています♪ そしてクライマックスは、お約束、エルビン怒涛のドラムソロという大団円が待っているのでした。
こういう盛り上がり危なく炸裂するのが、次の「The Children,Save The Children」です。演奏そのものはオーソドックスなモード系4ビートですが、それ故にメンバー全員が安心して自己のジャズ魂を吐露しているようです。もちろんコルトレーンを神と崇める瞬間が何度も訪れます。
C面では、まずメンバー紹介に続き、この日が誕生日というエルビンを祝っての「Happy Birthday」の合唱が微笑ましく、その場の良い雰囲気に和みますが、いきなり続く「Sweet Mama」の爆発的な演奏で天国と地獄を往復させられます。ソロの先発はジーン・パーラの無伴奏ベースソロで、これが緊張感たっぷりです。そしてテーマのリフから爆裂4ビートによる、お待ちかねのコルトレーン大会♪ 完全に熱くなりますよ。ここでは先発のグロスマンが重くハードに吹きまくれば、リーブマンはやや軽い音色ながらスピード感たっぷりに、かなり新しいフレーズを入れて対抗しています。もちろんエルビンのドラムスも大車輪です!
そして最終のD面は、まず不安感が漂うリーブマンのオリジナル曲「New Breed」でスタート、特筆すべきは、かなりテンポが速いのに、エルビンが全篇をブラシで通していることです。そしてこれが素晴らしい! 粘って、うねって、絡みまくりですし、ここぞで炸裂させるバスドラが強烈です。もちろんジーン・パーラのベースの蠢きも凄い! これだけ隙間を埋められては、サックスの2人も成すすべ無しという演奏になっています。
こうして疲れ果てた我々の前で演奏されるのが、オーラスのスタンダード曲「My Ship」です。ここではリーブマンのフルートが安らぎいっぱいで和みます。またそれに絡みつくグロスマンのテナーも温か味がありますねぇ~♪ いつまでも聴いていたい名演だと思います。
ということで、これはジャズ者ならば誰もが熱くなる名盤ですが、愕くのは、これだけ粘っこい演奏を繰り広げたメンバーが、エルビン以外は白人だということです。しかも、それゆえか随所にロック的な感覚、さらに言えばサイケロックやハードロックの味が同時に楽しめるのですから、たまりません。
ところが、なんとこれが現在、廃盤中らしい……。以前出ていたCDには未発表曲も入れてありましたので、メーカーは即刻、完全盤を復刻させるように! ここに強く要望致します。この願いは届くでしょうか……。たぶん……。