昨夜は懸念された大雪も無く、どうやら無事に今朝を迎えられましたが、寒い……。
雪国の冬も3回目ではありますが、やはりこういう時は温もりが欲しいということで、本日の1枚は――
タイトルどおり、ブルーノート・レーベルにおける3枚目のアルバムで、モダンジャズの名作として定番になっている作品です。
録音は1957年で、ご存知のようにリー・モーガンは天才少年トランペッターとして、この時は若干18歳でした。しかしその楽歴は、ディジー・ガレスピー(tp) のオーケストラで、リーダーと並び立つスターだったのです。
で、この録音セッションには、そのバンド仲間であるベニー・ゴルソン(ts)、ウイントン・ケリー(p)、チャーリー・パーシップ(ds) の先輩達、そしてジジ・グライス(as,fl) とポール・チェンバース(b) という名手が揃っての豪華共演になっています。
演目は全て、ベニー・ゴルソンの作・編曲によるもので、もちろん十八番の「ゴルソン・ハーモニー」で彩られた名曲ばかりですが、けっしてアレンジ偏重の大人しい出来ではありません。否、むしろハード・バップここにあり! という非常にゴツイ出来栄えだと思います。
まず、A面1曲目はアラビアン・モードの「Hasaan's Dream」で、ジジ・グライスがテーマで演奏するフルートの響きがエキゾチックな名曲、アドリブ・ソロでは、なんと言っても先発のリー・モーガンのトランペットが素晴らしい限りです。ミディアム・テンポなので、ジンワリとソロを展開させますが、随所にファンキーで跳躍力のあるフレーズを織込み、グイグイと演奏をリードしていきます。続くジジ・グライスのアルトサックスも、その灰色の音色はと逆に熱い情熱を迸らせていますし、ベニー・ゴルソンがなかなかハードボイルドに迫っているのにも驚かされます。リズム隊はファンキーなケリーのピアノ、的確にズバリと切り込んでくるパーシップのドラムスに比べて、全くマイペースにリズムをキープするチェンバースのベースが印象的です。もちろん暖かい「ゴルソン・ハーモニー」付きです。
2曲目の「Domingo」は一転して不安感漂う前奏から溌剌としたビバップ調のテーマが面白く、先発のゴルソンはアップテンポであるにも係わらず、ブレス漏れ的な溜息フレーズで迫ります。しかしこれが、なかなかにハードバップなんですから、ジャズは分かりません。そしてそれに負けじと弾けているのがリー・モーガン! 出だしのファンファーレ調のフレーズは当に十八番というところで、そのバリーションが随所に飛び出してきて、バックに流れる流麗な「ゴルソン・ハーモニー」も何処吹く風の名演になっています。パーシップのドラムスも快演♪
そしてB面ド頭が畢生の人気曲にして大名演の「I Remember Clifford」で、もちろんこの曲は交通事故で急逝した天才トランペッターのクリフォード・ブラウンに捧げられたものです。当然、この曲は天才のアドリブ・フレーズを上手く使いまわして作曲してありますから、ここでアドリブを展開するプレイヤーはプレッシャーたっぷりです。しかし、流石はリー・モーガンです、テーマの吹奏から哀切の情を滲ませつつ、新しい世代としての意気ごみを感じさせる力強さがあり、アドリブ・パートに入っては、クリフォード・ブラウン十八番のフレーズを自己のメロディ感覚で巧に料理した歌心を披露して、聴き手を酔わせます。しかもそれが事前に出来上がっていたストックフレーズではなく、その場の自然発生的な流れの中で生み出されていくのですから、凄みがあります。続くウイントン・ケリーも泣きのフレーズを弾いていて、これも名演です。また過剰ぎりぎりの「ゴルソン・ハーモニー」も、ここでは効果的で、ちなみにこの曲はリー・モーガン自身の他に多くのカバーがありますが、纏まりの点では、この初演が最高だと思います。
そういう前曲の余韻を大切にしつつも、一転して溌剌としたハードバップになっているのが、B面2曲目の「Mesabi Chant」です。なにしろアドリブ先発のリー・モーガンが思いっきり突っ込んだソロを披露するのです。この人はけっして完璧なテクニシャンではありませんが、瞬間芸としてのジャズで一番大切な瞬発力と新鮮さを失わないアドリブの組み立ては最高です。このアルバムでは、そのあたりの勢いが共演メンバーにも伝染しており、日頃ジェントルなイメージのジジ・グライスとベニー・ゴルソンが、かなりハードな一面を聞かせてくれるのも、魅力です。もちろんリズム隊の颯爽とした演奏は言わずもがなです。
そして、そのハードバップな部分が、ラストの「Tip-Toeing」では真っ黒なファンキー節となって爆発します。ミディアム・スローなブルースなんですが、テーマからして黒い、黒い! リズム隊もタメにタメて、ここぞという所で炸裂する瞬間を聞かせますし、随所に現れるホーン隊のキメのリフもカッコ良く、最高です。アドリブ・ソロは全員が好演ですが、やはり、リー・モーガンがトリッキー&ファンキーで、たまりません。特に思わせぶりな出だしから一転し、2コーラス目の弾けっぷりは見事ですし、3コーラス目では再び不気味な印象を醸し出しておいて、安らぎのフレーズに繋げるのですから、当に天才ですねぇ~♪
ということで、やはりこれは名盤中の名盤! 日頃ソフトバップと私が思っているベニー・ゴルソンがハードに迫り、知性派がウリのジジ・グライスが熱くなり、溌剌としたリズム隊が、何時も以上に弾けているのは、やはり、リー・モーガンの天才の成せる技でしょうか。
その破天荒な部分も含んだジャズ的な生き様が、十代ですでに行くところまで行っている雰囲気で、これはその最初の頂点を極めた記録になっていると思います。