■マラケッシュ行急行 / Crosby, Stills & Nash (Atlantic / 日本グラモフォン)
1969年に公式デビューしたクロスビー・スティルス&ナッシュ=CS&Nは所謂スーパーグループ登場と大いに喧伝され、翌年にはニール・ヤングも参加してのCSN&Yに発展するや今日まで、大衆音楽史にその名を刻するほどの成功を収めた事から、あたかも前述したデビュー期の盛り上がりは凄かった!
と思われがちな存在かもしれませんが、サイケおやじのリアルタイムの記憶では、少なくとも我が国においては決して大騒ぎになるような事はありませんでした。
つまり失礼ながら、スティーヴン・スティルスを知っていた我が国洋楽ファンは極めて少なかったと思うんですが、いかがなものでしょう。
また、前述したバーズにしろ、ホリーズにしろ、その頃には既に「世を過ぎた」バンドという不遜な扱いが、どうにも自然な感じさえありましたからねぇ……。
そもそも「スーパーグループ」という業界用語(?)が使われ出したのは、同じ年にデビューしたエリック・クラプトンとステービィー・ウィンウッドが手を組んだブラインド・フェイスがその代表格であり、もちろんそっちは世界的に爆発的な注目を集めたという現実の前に、CS&Nは如何にも地味ぃ~な印象しかなくて当然と思うばかりです。
ところがそんなある日、偶然にもサイケおやじがラジオで耳にしたのが本日掲載のシングル盤A面曲「マラケッシュ行急行 / Marrakesh Express」で、これがなんともホンワカムードの心地良いポップス曲だったもんですから、あぁ~~、これが洋楽雑誌なんかでちょっぴり取り上げられていた、元バーズと元ホリーズの残党が組んだグループの歌と演奏なのかぁ~~♪
そんな如何にもラジオが現代のインターネットのような役割を果たしていた時代ならではの感慨がありまして、もちろん以前にも書いたとおり、今となっては洋楽に目覚めた少年期からのサイケおやじにとっては、バーズとホリーズはビートルズよりも先に好きになった存在という正直な気持ちの再燃だったような気がするほどです。
そこで肝心の「マラケッシュ行急行 / Marrakesh Express」はグラハム・ナッシュの自作曲で、アップテンポで浮遊するキャッチーなメロディと軽快なドラミングやオルガンの音色、さらにはハイトーン主体のコーラス&ハーモニーワークが本当に爽やかな仕上がり♪♪~♪
あぁ~~、これぞっ!
バーズとホリーズの美しき流れの結実にちがいないっ!
なぁ~んてことを独善的に思っていたサイケおやじは、しかし同時に些かの勘違いもしていたことは言うまでもありません。
それは皆様ご存じのとおり、当時のロックの主流だったサイケデリック&ニューロックでは、グループとしての表現には楽器の演奏が主役になるものが少なからずあり、ハードロックやブルースロックの諸バンドは言うにおよばず、前述したバーズでさえも、ライブの現場では饒舌なギターソロによる長尺な演奏を披露していた中あって、ここまでボーカル&コーラスを前面に出したCS&Nは特異な存在と思われがちで当然だったはずが、実は彼等も殊更デイヴィッド・クロスビーとスティーヴン・スティルスは楽器の演奏にも堂々の自己主張を持っていて、それがギターの変則チューニングであったり、ジャズ系代理和音の使用やモード手法の導入等々、決して一筋縄ではいかないという音作りは侮れない事がサイケおやじにも追々と分かってきたもんですから、もう大変(?)です。
このライトタッチのポップス曲という印象の「マラケッシュ行急行 / Marrakesh Express」にしても、それを彩るハーモニーの深さと奥行きは一瞬、どこが主旋律なのか、ちょいと惑わされるほどの感覚が大きな魅力の源なんじゃ~ないでしょうか。
また、CS&N及びCSN&Yが大ブレイクした頃は、同時にシンガーソングライターという自作自演のミュージシャンが表舞台で活躍し始めた事もあり、我が国でも歌謡フォークの大きなブームがそこに連動していましたから、エレキよりはアコースティックなギターが音楽好きの若者には必須のアイテムとなってみれば、前述したとおり、デイヴィッド・クロスビーやスティーヴン・スティルスが十八番の変則チューニングが市民権(?)を得たかのように大流行!
その研究がプロはもちろん、アマチュアでも盛んになり、加えて音楽雑誌には特集までもが掲載されてしまえば、CS&Nが一番人気で解説されていましたですねぇ~~♪
しかし、そんなこんなはサイケおやじの稚拙な文章では伝わりにくいと思いますので、ひとつオススメしたのが、デイヴィッド・クロスビーとグラハム・ナッシュが組んでいたクロスビー&ナッシュが実演する「マラケッシュ行急行 / Marrakesh Express」で、残念ながら公式バージョンよりはブートによる映像や音源に接してみれば、意図的にシンプルに演じているであろうグラハム・ナッシュのリードボーカルとギターに寄り添うデイヴィッド・クロスビーの天才的なハーモニー感覚に酔わされてしまいますよ。
そして、だからこそ、グラハム・ナッシュが親しみ易い楽曲を提供出来るという好循環が成り立つように思いますし、極言すればデイヴィッド・クロスビーやスティーヴン・スティルスが作る、思い入れの強い歌ばっかりだったら、決してCS&Nの人気沸騰は無かったと思うばかりです。
最後になりましたが、ここに歌われている「マラケッシュ」とは説明不要、モロッコにあるイスラム文化の芸術的観光都市であり、もちろん未だサイケおやじは訪れたことはありませんが、少年時代に聴いた「マラケッシュ行急行 / Marrakesh Express」には、その目的地への漠然とした憧れを抱き、地図帳を広げては何時か……、なぁ~んていう気分になりましたですねぇ~♪
そ~ゆ~気持ちの昂ぶりを招来するのも、音楽の大切なパワーかもしれません。