OLD WAVE

サイケおやじの生活と音楽

ディランの真髄はプロテストソングなのか?

2016-09-19 17:27:28 | Singer Song Writer
George Jackson / Bob Dylan (Columbia / CBSソニー)
 
リアルタイムで初めて買ったボブ・ディランのLPは「新しい夜明け/ New Morning」で、それは昭和46(1971)年という我が国の歌謡フォークブームが盛り上がっていた時期でしたから、サイケおやじとしても納得しての切迫感に酔わされていたところがありました。
 
そして件の「新しい夜明け / New Morning」が思惑以上に聴き易かった所為もあり、また歌謡フォークよりは洋楽のそれが本物!?
 
なぁ~んていう勘違いもあったもんですから、翌年に新譜扱いで発売された掲載のシングル盤も迷わずというか、実は半分近くはミエで買ってしまったのが本当のところです。
 
もちろん、そんなこんなを書いているのは、だいたいがプロテストソングを歌っていると解説されていたボブ・ディランの諸作、あるいは他のフォークシンガーの歌を聴いたところで、英語もロクに分からなかった当時のサイケおやじには猫に小判、馬の耳に念仏だったわけですからっ!
 
ところが、それでもこのシングル盤に入っている「George Jackson」に惹きつけられたのは、すっかりロックスタアに変身(?)していたボブ・ディランが久々にプロテストソングを歌った!
 
等々のマスコミの煽りにノセられてしまったからで、しかもご丁寧にシングル盤の両面に同じ歌がアレンジを変えての収録!?!
 
という、如何にもプロテストな執念を感じた事にもありました。
 
それはわざわざ「Big Band Version」とされたA面がボブ・ディラン(vo,g,hmc) 以下、ベン・キース(steel-g)、レオン・ラッセル(b)、ケネス・バトリー(ds) の他にコーラスが入ったカントリーロックであったのに対し、「Acoustic Version」とされたB面がボブ・ディランの弾き語りという仕様で、率直に言えば、同じ歌を使い回しているのですから、所謂コスパは悪いわけですが……。
 
実はA面が約5分半強、対してB面は3分半強というランニングタイムの違いがミソ!?
 
実はこの「George Jackson」という歌は、黒人の過激政治団体「ブラック・パンサー」の幹部指導者であり、収監中だった刑務所から脱獄を企てたとして射殺されたジョージ・ジャクソンの事件を露骨に、そして大袈裟にっ!?
 
というふうに当時のアメリカの権力者達は決めつけていたところから、しかしボブ・ディランという稀代の詩人がそれを歌う事も妨げられず、そこで作られたレコードにはロングバージョンよりはショートバージョンがラジオ放送でも扱い易いという目論見があったと言われています。
 
しかし、それこそがボブ・ディランの本当の狙いで、なぜならば弾き語りのショートバージョンの方が歌詞がはっきり聴き取れるのですからっ!
 
 朝、目覚めると、涙で寝床が濡れていた
 あいつらが僕の本当に愛する人を殺してしまった
 あいつらが彼の頭を撃ったんだ
 
 神様… 神様…
 
 あいつらがジョージ・ジャクソンを殺したんだ
 
 神様… 神様
 
 あいつらがジョージ・ジャクソンを死の世界へ送ったんだ
 
という歌詞の中身には、もっと複雑な意味合いが隠されているのかもしれませんが、シンプルに聴き取っても、そんな反権力な歌であり、実際の事件現場では看守による集団暴行の嫌疑があるとか、様々に大きな波紋があったようですし、この事件に影響された刑務所の暴動や抗議デモによる騒乱がアメリカでは多発していたとあっては、ボブ・ディランの歌も穏やかには受け入れられないでしょう。
 
何よりも大手レコード会社のコロムビアが発売に踏み切ったという現実にも様々な憶測が渦巻くと思われますから、それだけボブ・ディランは危険分子でありながらも、同時に「お金の成る木」であった証かもしれず、若かった頃のサイケおやじにしてみれば、そんな諸々にもボブ・ディランの凄さを感じさせられたものです。
 
ただし、正直に告白すれば、楽曲そのものや演奏は、他の「ディランの聖典」に比べて、そんなに面白くはありません。
 
未聴の皆様も、特に「Big Band Version」という惹句には、もっとド派手なスワンプロックを期待されるかもしれませんが、実はシンプルでスカスカな演奏には肩すかし……?
 
それでも同時期に発売されていた「グレーテストヒット第二集」から流用されたと思しきジャケ写デザインのカッコ良さ、さらにはしばらくの間、この「George Jackson」が正規LPには未収録になっていた事もあり、シングル盤そのものがコレクターズアイテムになっていたのは、ちょっと嬉しかったです♪♪~♪
 
ということで、現在ではきっちり両バージョン共にCD化されていますので、今となっては何が問題だったのかという疑問も歴史の中の出来事でしょうし、我が国においては、そんな事情や経緯なんて、ますます無関係でありましょう。
 
ただ、それでもボブ・ディランという偉大なシンガーソングライターの虚実に触れんとする時、このシングル盤は案外と有用なのかもしれません。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする