Sixteen Tones

音律と音階・ヴァイブ・ジャズ・ガラス絵・ミステリ.....

ほんとうに怖い放射線被曝 ---「朽ちていった命」

2007-03-20 10:38:12 | 読書
最近1999年の北陸電力志賀原子力発電所の臨界事故の隠ぺいが報道された.これが当時明らかにされていたら.その3ヶ月後の東海村の事故はなかったかもしれない.ここに紹介するのは,NHK「東海村臨界事故」取材班編集「朽ちていった命―被曝治療83日間の記録」新潮文庫 (2006年9月) 2002年岩波書店版の文庫化.
カバー裏には「1999年9月に起きた茨城県東海村での臨界事故.核燃料の加工作業中に大量の放射線を浴びた患者を救うべく,83日間にわたる壮絶な闘いがはじまった―「生命の設計図」である染色体が砕け散り,再生をやめ次第に朽ちていく体.前例なき治療を続ける医療スタッフの苦悩.人知及ばぬ放射線の恐ろしさを改めて問う渾身のドキュメント...とある.

この被曝治療については数年前にある研究会でパワーポイントで見せられてショックを受けた.
その後,2001年5月にNHKスペシャルで報道された番組がこの本のもとである.
内容をなまじ知っていただけに,こわくてなかなか先に進めなかった.腸の粘膜がなくなり,消化も吸収もできない状況... 皮膚が破れても新しい皮膚が再生されず,1日に2リットルもの体液が滲み出す... といった記述が続くのだ.

延命治療についても,いやでも考えさせられる.この本では最後の方で患者は一日でも長く生きたかったはずと強調されている.そういう側面はあったかもしれない.いっぽう11日目(から18日目までのいつか)に患者は「おれはモルモットじゃない」とつぶやいたという記録もある.この本では隠されているが,科学行政 (というよりも,科学そのもの) のメンツが,いたずらに患者の苦痛を長引かせただけではないのかという疑問が残る.

NHKイコール政府のご用組織というイメージがあったが,このような原発推進政策に水を差しかねない番組を放映し,書籍も残してくれたNHKを見直した.

この危険は,核分裂に関する初歩の知識があれば,予測できたはず.いや,知識がなければ,バケツでウラン溶液をロートにながすという手抜き作業をする前に,手抜き作業がどんな結果をもたらす可能性があるか,まず考えなければならなかったはず.この大内さんという患者=被爆者と,その同僚ふたりはどのような教育 (職場の訓練以前の,大学あるいは高校での教育をふくめて) を受けたのだろうか.

大学の実験の講義では,この東海村事故を例に引いて「技術職にあっては一見なんでもない作業にみえても,そこにどんな作業がひそんでいるか,まず考えなければならない.さもないと,言われたことをやるだけで,ひどい目にあうこともある.偉くなって安易なことを命令して他人をひどい目にあわせるのは最低だ」と,毎年最後にお説教したのだが,学生諸君は分かってくれただろうか.こういうことは痛い目にあわないと分からないものだけれど.自分はといえば,けっこう痛い目に遭っていて,にもかかわらず似たような失敗をくりかえしてきたようだ.
コメント (2)
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