Sixteen Tones

音律と音階・ヴァイブ・ジャズ・ガラス絵・ミステリ.....

「吉本 隆明 夏目漱石を読む」を読む

2009-10-01 17:56:06 | 読書
吉本隆明「夏目漱石を読む」筑摩文庫 (2009/09)

著者がかって新左翼の間で神様のように言われていた当時は,敬して遠ざかっていたのだが,文庫カバー折返しの芋おじさんみたいな写真を見て,読む気になった.自分的には漱石の作品はたいてい読んだと思うが,内容はいちいちおぼえていない.でも好きな作家である.
吉本さんも夏目漱石が好きらしい.

「MARC」データベースの紹介.......漱石の代表的な12の作品をとりあげ、繰り返される主題と資質のかかわりに鋭い解釈を加えて,「暗い」漱石と「国民的作家」漱石の間にゆきとどいた理解の筋道をつける,四つの講演をまとめた........が簡にして要を得ている.
もとが講演なので,「です」「ます」調.「思います」と書かずに「おもいます」と書くなど,いくつか表記法に著者独特のこだわりがある.

12作品は4分割されており,ひとつの講演で3作品について語ったようだ.ほぼ年代順だが,「それから」と「三四郎」の順序が逆転したり ということはある.やはり講演のせいか,同じことを何度も言っている部分がある.

著者は「三四郎」以降の漱石の最大テーマは,ひとりの女性をめぐる仲のいい二人の男性の三角関係であり,これが姦通小説・不倫小説にならずに,罪の意識から登場人物の破滅に至るのが漱石文学の特徴であるとする.これは漱石のパラノイアによるもので,パラノイアは精神疾患だが同時に文学的資質でもあるとする.この原因は漱石の幼児期の体験に帰しているとする.

作品毎の変化 (進化) にも目が向けられている.「虞美人草」だけの美文調とか,「彼岸過迄」の探偵小説調とか,最後の「明暗」には,それまでの作品と異なり,始めて漱石の分身と思われる登場人物が登場しない,とか.

「坊ちゃん」では,主人公だけでなく赤シャツにも漱石自身が投影されているという指摘が面白かった.
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