Sixteen Tones

音律と音階・ヴァイブ・ジャズ・ガラス絵・ミステリ.....

円盤楽器の音階

2015-01-03 08:30:00 | 新音律


昨年の「楽器としての円盤」ではスペクトルの計算法を紹介した.実際のスペクトルは上のように,円盤のどこを叩くかで異なる.すなわち中心から云々は半径を1としたときの叩く位置で,何本というのは目立った線スペクトルの数である.これについては後で述べることにして,今回はメロディ楽器を念頭に,このような音源からどう音階を作るか,を考えたい.

円盤は2次元だが,弦楽器・管楽器の振動源は1次元である.この1次元楽器のための音階がドレミ...である.ドレミが生まれた経緯には諸説あるが,そのひとつは以下のようなものだ.
両端を固定した弦の振動のスペクトルは下の図のように基本周波数,その2倍,3倍,4倍,...から成る.右側はバイオリンのスペクトルで,たしかに線が等間隔に並んでいる.

ここで2倍波,4倍波,一般化すれば偶数波では左の図が示すように弦の中点は不動である (振動論では節という).逆に弦を弾く際にこの中点を弾くなり擦るなりすると,2倍波,4倍波などの偶数波は発生できない.冒頭の図のように,円盤楽器で叩く位置によってスペクトルが変わるのも同じ理由である.



下図は弦楽器でドレミ...を弾いたときのソノグラムと称するもので,縦軸が周波数である.基本周波数,その2倍,3倍,4倍,..と線が縦に等間隔に並ぶが,ドからレ レからミへと,横方向に高音になるほど基本周波数は高くなり,線の間隔は広がる.
ここでドの3倍波とソの2倍波,ドの4倍波とファの3倍波,ドの5倍波とミの4倍波の周波数が等しく見えることに注目したい.図には示さなかったが,ドの5倍波とラの3倍波も等しい.周波数の一致の理由は,ドの周波数を1としたとき,ミ,ファ,ソ,ラの周波数はそれぞれ 5/4.4/3.3/2,5/3 であるためである.逆にこのように簡単な整数比で書ける分数を1と2の間に並べたのがドレミ...である.9/8 のレと,15/8 のシを補うと,ドレミファソラシドが揃う.
このドレミ..という音階の特徴は協和する音が選べることである.図は,ドとミ,ドとソなどが協和することを示しているのだ.



円盤の基本周波数は大きさで決まるから,大きさの違う円盤を並べてドレミ...という音階を作ることは簡単である.しかし円盤の持つスペクトルのために,ドとミ,ドとソなどは協和しない.円盤楽器でドレミ...のために作った曲を弾くと,じつは和音を作らなくてもオンチっぽい感じになる.
ガムランを思い浮かべると,そこで使う音階はドレミ...とは異なる.ガムランでは3次元形状を持つ打楽器を使うので,それに適した音階があるのだ.そこで2次元形状の円盤楽器に対しても,これに適した音階を作ることにする.

1次元音源のスペクトルからドレミ...を作った方法を小賢しくいうと「スペクトルから『不協和曲線』を計算し,極値を与える周波数列から音階の構成音の周波数を求める方法」となる.管楽器・弦楽器のスペクトルの不協和曲線からドレミ...が得られるのなら,冒頭に示した円盤のスペクトルの不協和曲線からは円盤楽器に適した音階ができるであろう.この結果生まれる音階はドレミ... とはまったく別な音階で,五線譜に書くことができない.しかし協和音を選ぶことができる.

不協和曲線については拙著「音律と音階の科学」および「 視て聴くドレミ: フーリエ音楽学への招待」に記述してある.

櫻井直樹氏はこの方法で音階を作り,各構成音周波数に対応する半径と厚さを持つ円盤を並べて楽器を作った.
この Youtube 動画は櫻井音階を持つ楽器の演奏風景である.実は演奏者は撮影のほんの5分前にこの楽器と対面したので,演奏というより試行錯誤,というより どうしていいか困っていると言うのが正しい.この動画をアップすべきかどうか迷ったが,楽器のイメージを掴んでいただくことはできると思う.サクライ・スケールの詳細は数値とともに学術論文として刊行される.



追記 : 「円盤」か「円板」か? 辞書によれば,盤は丸いお皿の形状らしい.板のほうが適しているように思えるが,重みがないなぁ.
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