Sixteen Tones

音律と音階・ヴァイブ・ジャズ・ガラス絵・ミステリ.....

気候変動を理学する

2015-01-17 08:05:48 | 科学
多田 隆治,みすず書房 (2013/4).

著者 (東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻 教授.専門は地球システム変動学・古海洋学・古気候学・堆積学) が一般市民を対象に行った,サイエンスカフェの内容をまとめたもの.
サブタイトルが「古気候学が変える地球環境観」.これを見て,悠長な話のように感じられ,最初は食指が動かなかった.しかし,地球温暖化という人類の危機を,長いところでは 100 万年単位までの悠揚迫らざるテンポで (でもダンスガード・オシュガー・サイクルではわずか3年で気温が 10 度上昇した例も) 説いて下さる,まれに見る良書というのが読後感.さすが,みすず書房.
扱われている問題は深刻だが,ミステリーのように楽しむこともできる.さすが「理学」.
もっと売れるタイトルにして,新書にして...と言いたいが,そうしたらこの本の長所も半減するかもしれない.

学校の授業みたいに淡々と進むのが,声高に自説を吹聴する本に比べると新鮮だ.
しかし,最後の「サイエンスカフェを終えて」という文章から抜粋すると...

***** 地球温暖化に反対する見解の多くが,一方的な主張(解釈)のみを誇張した形で示しており,それを支持する証拠も都合がよいもののみを巧みに選び出していて,その提示の仕方が断片的あるいは抽象的であるため検証しにくいということがある.一方,温暖化がすでに進行していると主張する側の説明は,一般により包括的,論理的ですが,内容は往々にして専門的で論理は複雑であり,専門外の人には難解に感じられます.*****

確かに CO2 濃度の論理は「うちの研究室の学生もにわかには理解できない」とおっしゃるように,複雑怪奇.「生物ポンプ」などという専門語も登場する.気候学者は化学はもちろん,生物学にも造詣が深くなきゃいけないのだ.かと思うと自動制御理論みたいに負フィードバックループが登場する.時間スケールの大きいモデルと小さいモデルを区別する必要があり,海洋も表層と深層を分けて考えなければならない.北半球と南半球・太平洋と大西洋では事情がことなる....
また,この領域は若く,20 世紀後半から末期に解明されたことが論理を組み立てているのも意外であった.

もう少し引用すると
***** 地球温暖化が十分な科学的理論と根拠に裏付けられていることは,その道の専門家にとっては既成の事実であり,9割以上の学者が温暖化支持派だと思います.残りの1割弱の科学者についても,その多くは,まだ証拠が十分でないとする慎重派で,CO2濃度上昇に伴う地球温暖化を全否定する科学者は1%にも満たないのではないでしょうか.にもかかわらず,マスコミは,しばしばこうした超少数派の意見を (中略) 温暖化支持派の見解と対等であるかのような扱いをする.これが地球温暖化に対する各国の対応を遅らせ,問題を深刻化させる原因となってきたのです.*****

この後「世界がもし100億人になったなら」と同じ趣旨の記述が続く.地球温暖化はすでにかなり進行し,人為的な炭酸ガス放出を止めただけではすぐには (数百年は) もとに戻らないところまで来ている.このまま炭酸ガス放出を続ければ,現在の気候モードを維持するメカニズムが機能する限界を超え,急激な気候モードジャンプが起こるかもしれない.そのような非可逆的なジャンプは生態系でも起こるかもしれない...

図書館で借用.
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

reading

/Users/ogataatsushi/Desktop/d291abed711d558e554bf7af66ee57d7.jpg