Sixteen Tones

音律と音階・ヴァイブ・ジャズ・ガラス絵・ミステリ.....

科学の危機

2015-05-09 05:58:17 | 読書
金森修,集英社新書 (2015/04).

「BOOK」データベースより*****かつて毒ガス兵器の開発者がノーベル賞を受賞した。その後も科学の軍事利用は止まるところを知らず、原子力、遺伝子ビジネスなど、研究はさらに未知の領域へと踏み込んでいく。本書は科学史と思想史を手がかりに、“科学の古典的規範”がいかに崩壊したかを明らかにする。さらに、専門家ではない人々が、科学の暴走に歯止めをかけるために必要な“感覚”について論じる。危機に瀕する科学に対し、どこに問題の本質があるのか核心を突く画期的論考。*****

キーワーズは CUDOS から PLACE へ.
科学者たちのエトス (集団内で共有される傾向や習慣) は,かっては Communinalism, Unoversarism, Disinterrstedness, Organised Skepticism といった美しい単語で表されていた.しかし今では外的条件により,Proprietary, Local, Authoritarian, Commissioned, Expert Work で縛られている.これが著者の言う「科学の危機」である.

著者の論調では CUDOS が理想らしい.現状でも,科学者自身,自分は CUDOS に即して仕事をしていると理解しているという蓋然性が高いという.16 トンの意見では,CUDOS と PLACE の境界はファジーだし,CUDOS のつもりが後から考えるとそうでなかったりするのが問題のはずである.

この本ではノーベル賞をもらったフリッツ・ハーバーという毒ガス研究者について一章を割いている.毒ガス研究も原水爆研究も同列に思えるが,では原発の研究はどうか? 少なくともフェルミ以来,ほとんどの原発研究者は 21 世紀の原発の有り様など想像することなく,嬉々として研究に取り組んできたのであろう.
昨今の生命科学に裏打ちされた医学の進歩は,まさに世のため人のためになっているように見えるし,それに従事している研究者は誇りを持っている.しかしその結果は,長寿命社会・悪く言えばあまり健康とは言えない老人が目立つ社会であろう.不老不死と言っても,不老は困難.それに比べて死を先延ばしすることは比較的易しい.
中国で行われているヒト受精卵の遺伝子を操作は,中国人の倫理観には抵触しないらしい.

この本は健全と思われる科学の研究が人間社会に与える悪影響には踏み込んでいない.半世紀前シリアスな SF が語っていたことが次々と現実化しているし,科学というより人類の終焉は近いようだ.この難しい問題を積極的に扱うことには,やや敬遠気味なところが不満.
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