Sixteen Tones

音律と音階・ヴァイブ・ジャズ・ガラス絵・ミステリ.....

短歌は物語を内包する

2015-12-16 18:04:06 | 読書
松村 由利子「物語のはじまり―短歌でつづる日常」中央公論新社(2007/01).

古書として購入.

帯には「おわりに」の冒頭が引用されている.
「31音という短い詩型がもつ力,それは物語を内包する力ではないかと思う.こんなに小さな形なのに,人生のいろいろな場面が凝縮されていて,読む者の胸に届いた途端みるみるうちに感情をあふれさせる」,
そして「この本は,日々の生活を短歌で点描するという,いっぷう変わった試みである」と続く.

著者はまた,「俳句はその切れ味をこそ大切にするから,嫋嫋とした物語をあえて持ち込むことを好まない面があるかもしれない」と言う.

日々の生活は10のテーマ「1 働く,2 食べる,3 恋する,4 ともに暮らす,5 住まう,6 産む,7 育てる,8 見る,9 老いる,10 病む・別れる」に分類され.現代短歌が短い解説とともに紹介される.著者自身のの新聞記者だった経験や,結婚・離婚・子育てなどもうかがえる.

引用された短歌たちが粒ぞろい.「点描」抜きで少し引用させていただくと,「1 働く」からは,入社試験の面接が対象らしい
  リクルートスーツを脱げばあらはるる男尊女卑に怒るふともも 辰巳泰子
「怒るふともも」がすごい.

「2 食べる」から
  牛丼の並と卵を注文し出てきたからには食わねばなるまい 斉藤斎藤
ペンネームの姓と名で字が違う.

「3 恋する」の恋人同士の電話の内容.
  「酔ってるの? あたしが誰かわかってる? 」「ブーフーウーのウーじゃないかな」 穂村弘
ブーフーウーがわかる人は少なくなりつつあると思うが.

巻末には引用歌作者索引.

短歌と無関係な話題もときどき飛び出す.講義中の学生の私語に苛立った助教授が,たまりかねたように「出て行きなさい!」と叫んだ後,いつになく激したのが照れくさかったらしく,うつむき加減にぼそぼそとシェイクスピアのマクベスの一節
  Out, out, brief candle ! ....
を呟いたというエピソード.出典がわかって拍手した学生たちも優秀 !
コメント
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