Sixteen Tones

音律と音階・ヴァイブ・ジャズ・ガラス絵・ミステリ.....

ノックス・マシン

2015-12-29 08:46:59 | 読書
法月 綸太郎,角川文庫(2015/11).

2014 年にミステリ本ベストテンを総なめににした作品の文庫化.ミステリマニアには面白いが,そうではない読者にはわからないと思う.SF 仕立てで,物理学の専門語がちりばめられて,小道具効果を上げている.小栗虫太郎が,あること・ないことを古今の文献引用という形で書いて雰囲気を盛り上げたのと似ている.

ノックスはイギリスのミステリ作家だが本職は神父で.ノックスの十戒で有名.これは彼が1928年に発表した推理小説を書く際のルールで,Wikipedia から引用すると

1)犯人は物語の当初に登場していなければならない
2)探偵方法に超自然能力を用いてはならない
3)犯行現場に秘密の抜け穴・通路が二つ以上あってはならない(一つ以上、とするのは誤訳)
4)未発見の毒薬、難解な科学的説明を要する機械を犯行に用いてはならない
5)中国人を登場させてはならない
6)探偵は、偶然や第六感によって事件を解決してはならない
7)変装して登場人物を騙す場合を除き、探偵自身が犯人であってはならない
8)探偵は読者に提示していない手がかりによって解決してはならない
9)“ワトスン役”は自分の判断を全て読者に知らせねばならない
10)双子・一人二役は予め読者に知らされなければならない

このうち 5) だけがいかにも変で,法月流に言えば「特異点」である.これをネタにしたのが,この短編集のうちの最初の「ノックス・マシン」で,その続編が最後の「論理蒸発 - ノックス・マシン2」である.
他に短編二つ.「引き立て役倶楽部の陰謀」の「引き立て役」は名探偵の引き立て役すなわちワトスン役を指す.
「バベルの牢獄」ではところどころ行単位で左右反転したフォントが現れる.読むときに飛ばしてもなんとか意味が通る.


ノックス・マシン 2 では「読者への挑戦」もまたネタになっている.ミステリの終わり近く,「ここまでの記述でわかるはず,犯人を当ててください」というページが挿入されることがあるが,エラリー・クイーンがこれは始めたのだそうだ.
そこで,以下は脱線.

現代文の大学入試問題は,もともと答えのないものに正解をこじつけるから面白いことになる.問題は誰かが書いた文章を切り取ってくるのが普通だ.昔,雑誌か何かで,その文章を書いた当人に問題に挑戦させるという企画があったが,満点はなかったと思う.
絶対に正解がある問題を作りたければ,ミステリを使えばいいと思うが,どうだろう.


コメント
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reading

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