Sixteen Tones

音律と音階・ヴァイブ・ジャズ・ガラス絵・ミステリ.....

ディストピア小説 献灯使

2019-01-24 10:00:02 | 読書
多和田葉子「献灯使」講談社文庫(2017/8).単行本刊行は2014/10.☆☆☆☆

Amazon の内容紹介*****
大災厄に見舞われた後、外来語も自動車もインターネットも無くなった鎖国状態の日本で、死を奪われた世代の老人義郎には、体が弱く美しい曾孫、無名をめぐる心配事が尽きない。やがて少年となった無名は「献灯使」として海外へ旅立つ運命に……。
圧倒的な言葉の力で夢幻能のように描かれる’’超現実”の日本。
人間中心主義や進化の意味を問う、未曾有の傑作近未来小説。*****

上記・死を奪われた世代の義郎は,ぼくと同世代らしい...ということは,約30年後まで生きながらえると,日本はこうなっているということか.
SF 的設定だが,その設定を説明することに紙面の大部分が割かれ,小説的展開には乏しい.結末はロマンティックかもしれないが,よくわからない.
しかし「設定」そのものは,民営化政府が鎖国を決めるとか,無名 (よい名前!!) 世代は美味しい/まずいを気にしないとか,おもしろい.「敬老の日」「こどもの日」は名前が変わって「老人がんばれの日」「子供に謝る日」となり,「勤労感謝の日」は「生きているだけでいいよの日」になり,「建国記念の日」は流されて行方不明だそうである.

右端の写真のように書店では帯付きだが,帯を外した中央のほうが怖い.この絵が近未来の日本人かもしれない.
帯が言うように,昨年11/14にこの作品が第69回翻訳書部門全米図書賞(National Book Awards)に選ばれた (英訳は Margaret Mitsutani さん).そのために増刷され平積みされ,ぼくの目にも触れたと言うわけ.左が英語版のカバーイラストだそうだ.デザインとしては好きだが,本文にはマッチしない.

表題作以外の4編中「韋駄天どこまでも」の漢字分解遊びみたいな部分は英訳不可能と思う.
「不死の島」はドイツに住む語り手=著者が見た「献灯使」時代のニッポン.2015 年などの年号が「献灯使」の記述を嘘臭くしているが,それが意図するところかもしれない.
「動物たちのバベル」は戯曲スタイル.
文庫本のロバート・キャンベルの解説は表題作以外には言及していない.きっと読んでいないのだろう.

裏側の帯に「デストピア」の文字があるが,これは dystopia ? それとも dethtopia ?
コメント
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