日本近代文学館 編, 出口智之 責任編集「明治文学の彩り 口絵・挿絵の世界」春陽堂書店 (2022/8)
図書館で借用したこの本の,造本については 9/13 に書いた.
目次は*****
Ⅰ 口絵・挿絵とは何か / Ⅱ 作家と出版社の挑戦 / III 謎の絵/ Ⅳ 明治文学の華やぎ/ Ⅴ 新聞挿絵の世界*****
作家から挿画家への指示書は I のテーマのひとつ.II では,例えば物語の結末を絵で示してしまうというような大胆な試みも紹介される.III の謎の絵は,たとえば本文を書く前に作者が画家に指示した内容が,後に書かれた本文とくいちがってしまった場合に生まれる.IV は雑多な話題集.洋画家のイラストについてはこの章より.
トップの画像は V より,尾崎紅葉・田山花袋「笛吹川」読売新聞 明28 連載の,中江玉桂による挿画.小説自体は1段目左 1/4 あたりから2段目に続くのだが,装画は1段目の記事を侵食している.この挿画では人物の顔は一度も示さず,小物・風景・シルエット・うしろ姿などで物語を抽象化している.これは紅葉の指示によるものだという.宮の水死画も示しているように,彼の興味が文学・絵画の2ジャンルを横断していたことはもっと評価されて然るべき.
毎日掲載される新聞小説の挿画が単行本になると消えてしまうのは,明治期でも現代でも変わらない.まことに残念だ.
もっとも加賀乙彦の朝日新聞連載「湿原」の野田弘志による挿画が豪華画集として出版されたことはあった.でもぼくとしては,文庫本にふつうに挿画も小説本文に一緒に印刷し発行してもらいたい.
巻末に東京大学准教授・出口智之による「口絵・挿絵という問題系 画文学に向けて」.出口先生の科研費研究課題は,基盤研究(C) 2022 - 2024 「日本近代文学と近代絵画の関係を中心とする学術領域横断的研究」である.自分もこういう研究がしたかった...のかもしれない.
理工系には大学文学部不要論を唱える輩が多い.しかし核兵器や原発をつくり,富国強兵を助長し,地球温暖化を招いたのは誰だと考えると,理工系学部こそ不要だ...と,文系さんたちは逆襲できると思うが,そうはならないようだ.