Sixteen Tones

音律と音階・ヴァイブ・ジャズ・ガラス絵・ミステリ.....

怪作 「我輩も猫である」

2022-09-26 08:01:24 | 読書
高田 保「我輩も猫である」要書房 (1952/4).

もともと安いざら紙が黄変し,印字も薄く,従ってコントラストが弱く読みにくい.表紙も触れれば破れそう.帯の惹句
*****鬼才高田保の温い庶民的風貌を髣髴としてうかがわしむる皮肉でユーモラスな猫の目に映じた現代世相の悲喜劇図*****
は名文.

この小説が書かれたのは出版を遡る 1946 年で夕刊・新大阪に「猫」のタイトルで連載された.バックは終戦直後の世界で,民主主義と野坂参三が何ページおきかに登場したりする.漱石の「我輩は...」の方がずっと現在に近い雰囲気を持つように思えてしまう.

漱石の猫同様,著者が蘊蓄をかたむける部分が半分くらいだが,ストーリーらしいものもある.
登場するのは自称・野良猫の我輩が根城とするらしい作家とその妻,漱石版の金田を思わせる ヤミで稼ぐ一家,本文中で主人が復員してくる一家.作家は苦沙味と迷亭を混ぜたような性格.最後に復員家族が一家心中するが,その経緯は猫だけが知っている,ということになる.

新聞に挿画を描いた宮田重雄によるあとがきには.「我輩も猫である」への改題は亡くなった高田保 (1895-1952) の友人たちの商業主義によるもの.著者本人は嫌がるだろうが,一冊でも余計に売れて,印税が遺族の方にはいったら というおもんばかりによるもの とある.
宮田は猫を飼っていなかったので,近所の洋画家 T 女史のところに通いポチという猫を写生したという.10 枚ばかりを作者にわたし,画家は勝手に旅行したりした.でもこの猫たちは出来が悪い.例えば右の扉の絵は面白いが,顔が変だし,もっと首の後ろの方を摘まなければ,猫をぶら下げることはできない.

全約 200 ページのうち「我輩も...」が 125 ページ.残りに隨筆「どろどろつくどん」を収録.当時の定価 160 円・地方定価 165 円を,古書店で 400 円で購入.
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