文藝春秋9月号.芥川賞受賞作を読むつもりだったが,この記事,木村俊雄氏による「福島第一原発は津波が来る前に壊れていた - 元東電社員「炉心専門家」が決意の実名告発」にまず目がいった.
BWR (沸騰水型原子炉) では,電源が喪失しても炉心内を水が「自然循環」していれば炉心の熱の半分は除去できるように設計されている.しかし,自然循環はなかった !!
トッブ画像が,記事に引用された炉心内循環流量の時間変化グラフ.地震発生は 14:46,14:47... のポンプランバックとは,緊急時にポンプの負荷を減少させることとであろう.その結果流量は減少するが,14:48... に電源が喪失 (A) し,計測値もマイナスになる.その後スパイクとともに計測は復活する (B) が,C時点から以後は流量ゼロとなる.津波第一波の到着ははるかに遅れた 15:27 であった.
流量がなくなると燃料被覆管の表面が気泡で覆われ,燃料と冷却水を隔離する結果,燃料溶融に至る.これを「ドライアウト」と言うのだそうだ.津波到着の40分も前から,地震により原子炉は冷却不能に陥っていたことになる.
東電としてはこのデータの存在を隠し通すつもりだったが,データの意味も不開示の理由も理解していない社長の一言で開示された.
木村氏は,福島県田村市の住民が東電を相手に起こした訴訟で,今年 (2019年) 3月と5月の2回,証人として出廷しこの現象を語ったとのことである.東電の主張は,計測データにローカットフィルタリングなる操作を施した結果流量が止まっているように見えるだけ,と言うものだった.しかし同じ東電が提出した原子炉メーカーの設計書によれば,データはフィルタリング以前のものであることが明らかであった,という.
以下は 16 トンの私見.
トップのグラフは「過渡現象記録装置」のデータとのこと.たぶんこれは我々がいうトランジェント・レコーダーのことと推察する.常時測定しているが,何か異常事態が起きるとその前後のデータを集中的に提供する装置で,航空機のフライトレコーダーやボイスレコーダーもこの範疇に入る.
文春も結構だが,木村さんにはより科学的・技術的な論文をまとめ,しかるべき場で発表していただきたい.この記事では,流量をどこで測ったのかはわからない,局所的な流量か全体的な流量かもわからない.自然循環水量の設定値は...図から推測すると 5000 トン/時くらい? また流れが停止した原因は「ジェットポンプ計測配管」の破損と推測しておられるが,この「計測配管」と過渡現象記録装置との関係など,より詳細な説明をうかがいたいところである.