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ノーベル物理学賞 : 地球温暖化はなぜ起こるのか

2022-08-19 06:17:50 | 読書
真鍋 淑郎, アンソニー・J・ブロッコリー, 阿部 彩子・増田 耕一 (翻訳, 監修), 宮本 寿代  (翻訳)「地球温暖化はなぜ起こるのか - 気候モデルで探る 過去・現在・未来の地球」講談社 (ブルーバックス 2022/6).

序文には「(著者のひとり)真鍋がプリンストン大学大気海洋科学プログラムで教えた大学院課程の講義ノートをもとにしている」とあるが,大学院レベルの教科書をイメージすると勝手が違う.数式を使えばすっきりすると思われる部分もほとんどコトバで説明するので,まどろしく分かりにくい.フラックス調整とか湿潤対流調整とかも,この厚さの本では無理かもしれないが,数式に数値を入れて定量的に示していただきたいところだ.
翻訳は悪くないと思う.

学術図書並みに図版目次,文献リスト,索引完備.勉強したければ文献を当たりなさい...ということか.2010 年代後半以降の文献はあまりないが,大した進歩がなかったのでしょう.カラー図版が参照すべき位置に挿入されず,巻頭にまとめられているのは不満.

数式なしだからポピュラーサイエンス本ということ ?  それにしては口当たりが悪すぎ !  ブルーバックス化は最初は念頭になかったように思う.講談社の編集担当はひとことも口を挟んでいないのではないか.

監訳者あとがきには「読む方は第1章の後半から内容が急に高度になったと感じるかもしれない.それは「悟り」がここに書かれているからである」.だから「第1章を難しく感じた方も,気にせずその先へと進んでほしい」とある.仰せの通り,かなりの斜め読みではあったが,読み進んだら最後まで行ってしまった.
深く狭い分野ではなし,シュレディンガー方程式・マックスウェル方程式に匹敵する予備知識は不要だから,なんとかついて行けた,というところ.

講談社 BOOK 倶楽部のホームページに詳細な目次があるが,章のタイトルだけをあげると以下のようになる.n) という表記は第 n 章のことである.

1) はじめに / 2) 初期の研究 / 3)1次元モデル / 4)大循環モデル / 5)初期の数値実験 / 6)気候感度 / 7) 氷期・間氷期の比較 / 8) 気候変化における海洋の役割 / 9) 寒冷な気候と海洋深層水の形成 / 10) 地球の水循環はどう変わるか?

まず観測を再現するプログラムを作り,そこで CO2 量のようなパラメータを振るのはどの分野のシミュレーションでもおなじこと.16 トンにとって馴染みが深いのはプラズマのシミュレーションで,それと本質的には変わらないのだが,実験室プラズマの構成要素や境界条件に比べると,地球は生き物であり,ずっと複雑だということは実感できた.おもしろかったのは 7)-9) だった.

6) のタイトルとされている「気候感度」は平衡応答のことである.この 6) では珍しく数式が登場し,フィードバックについて記述される.ここは大学初年級の制御工学の説明を取り入れればずっとスマートに行けそうだ.7) までは平衡応答,すなわち熱を強制的に与えたとき,長い時間をかけて気候が落ち着く先を調べているが,8) 以下では過渡応答が問題にされる.
「コントロール実験」という耳慣れない言葉も頻出するが,これは標準的なパラメータを用いた試行の結果で,パラメータを振った結果と比べるときのスタンダードというほどの意味らしい.

この春の第77回物理学会年次大会領域13には林 弘文氏 (この7月にご逝去) による「真鍋論文に学べ」という,語呂合わせのようなタイトルのチュートリアル講演があったそうだ.

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6 コメント

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AI半導体の動向 (某計算機センター関係)
2024-12-10 09:09:11
AI半導体大手のNVIDIAのCEOも「AIと日本の優れた製造業、ロボット技術を合わせれば、日本は新しい産業革命を起こせる」と述べ、日本が持つ可能性に対して強い期待感を表明している。このようなAI技術は地球環境問題だけでなく人口減少に伴う労働力不足の解決策ともなろう。今後ロボットは高度な多軸、多関節化がおこることが予想されるため日本人の経営者も指導力を発揮すべきでは。
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AI革命の旗手リスペクト (元鉄鋼商事関係)
2024-12-10 09:06:27
日経クロステックの記事に今年のノーベル賞は「「AIの父」ヒントン氏にノーベル賞、深層学習(ディープラーニング)の基礎を築いた業績をまとめ読み」と題して紹介されていましたが、物理学賞、化学賞ともにAIがらみあったんですね。しかしながらブラックボックス問題の解明には至っていないようです。
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コンピュータサイエンス教育において (マルチスケール数理モデリング)
2024-12-10 06:55:20
なるほどトライボロジーにおけるストライベック線図が、コンピュータサイエンスの基礎を説明するのに有効なのですか。なるほどこれは新たなる価値創造ですね。AI数学を教えるやり方としてグローバルスタンダードになりそうないいアイデアですね。
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ラマン分光 (ミカドオイル)
2024-12-10 05:07:00
「材料物理数学再武装」なつかしいですね。トライボロジーにおけるペトロフ則おとクーロン則を関数接合論でつなげてストライベック曲線を作成する場合、関数の交点近傍でなくても繋げることができる関数としてAI技術の基礎となるシグモイド関数が出てくるあたりがとても印象的でした。ストライベック曲線(シュトリベック線図・Stribeck curve)は、ドイツ人研究者のRichard Stribeck(リヒャルド・シュトリベック)が20世紀はじめに、すべり軸受の摩擦特性や、転がり軸受の静的負荷能力の実験から、導き出した軸受定数G(ゾンマーフェルト数;無次元数の一種)に対する摩擦係数の挙動を示す特性曲線です。
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潤滑機素設計関連 (ストライベック)
2024-12-10 04:51:21
「材料物理数学再武装」といえばプロテリアル(旧日立金属)製高性能特殊鋼SLD-MAGICの発明者の方で久保田邦親博士(工学)という方のの大学の講義資料の名称ですね。Facebook番外編の経済学の国富論における、価格決定メカニズム(市場原理)の話面白かった。学校卒業して以来ようやく微積分のありがたさに気づくことができたのはこのあたりの情報収集によるものだ。ようはトレードオフ関係にある比例と反比例の曲線を関数接合論で繋げて、微分してゼロなところが最高峰なので全体最適だとする話だった。同氏はマテリアルズ・インフォマティクスにも造詣が深く、AIテクノロジーに対する数学的な基礎を学ぶ上で貴重な情報だと思います。それと摩擦プラズマにより発生するエキソエレクトロンが促進するトライボ化学反応において社会実装上極めて有効と思われるCCSCモデルというものも根源的エンジンフリクション理論として自動車業界等で脚光を浴びつつありますね。
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マル円サイト変態グローバル (サムライ鉄の道リスペクト)
2024-11-20 17:49:30
最近はChatGPTや生成AI等で人工知能の普及がアルゴリズム革命の衝撃といってブームとなっていますよね。ニュートンやアインシュタイン物理学のような理論駆動型を打ち壊して、データ駆動型の世界を切り開いているという。当然ながらこのアルゴリズム人間の思考を模擬するのだがら、当然哲学にも影響を与えるし、中国の文化大革命のようなイデオロギーにも影響を及ぼす。さらにはこの人工知能にはブラックボックス問題という数学的に分解してもなぜそうなったのか分からないという問題が存在している。そんな中、単純な問題であれば分解できるとした「材料物理数学再武装」というものが以前より脚光を浴びてきた。これは非線形関数の造形方法とはどういうことかという問題を大局的にとらえ、たとえば経済学で主張されている国富論の神の見えざる手というものが2つの関数の結合を行う行為で、関数接合論と呼ばれ、それの高次的状態がニューラルネットワークをはじめとするAI研究の最前線につながっているとするものだ。この関数接合論は経営学ではKPI競合モデルとも呼ばれ、トレードオフ関係の全体最適化に関わる様々な分野へその思想が波及してきている。この新たな科学哲学の胎動は「哲学」だけあってあらゆるものの根本を揺さぶり始めている。こういうのは従来の科学技術の一神教的観点でなく日本らしさとも呼べるような多神教的発想と考えられる。
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