Sixteen Tones

音律と音階・ヴァイブ・ジャズ・ガラス絵・ミステリ.....

馳 星周選「闇冥―山岳ミステリ・アンソロジー」

2021-03-22 09:03:55 | 読書
山と渓谷社ヤマケイ文庫(2019/02).
松本 清張・新田 次郎・加藤 薫・森村 誠一による4作品.巻頭の「撰者の言葉」は抽象的.巻末にあるべき解説はない.

松本清張「遭難」については昨3/21にこのブログに書いたWikipedia から引用すると*****
プロットを考えた松本が、登山家(のちに作家)の加藤薫に相談したところ、そのプロットには鹿島槍の頂上がちょうどいいとの説明を受け、加えて加藤は松本(と『週刊朝日』で『黒い画集』シリーズ担当の永井萌二)を鹿島槍ヶ岳に連れて登山し、「現地講義」を行ったが、山の中腹まで現地を踏み、実景を見た点で、書くのに自信がついた、と松本は回想している.***** ただし,この記述には異論もある
この本の,その加藤の作品のタイトルも同じ「遭難」.発表は松本作品の12年後.重要な登場人物の姓「江田」も同じ.
この2作がページ数が多い.新田・森村の2作は軽い.

加藤作品については,古寺多見さんのブログ「KJ's Books and Music : 松本清張の山岳ミステリー「遭難」と筆を折った山岳作家・加藤薫(追記あり)」と,そこに引用されている川口 則弘さんのブログ「直木賞のすべて 余聞と余分 : 山岳ミステリー作家、プロ魂を発揮して、現実の苦悩を小説に託す 第63回候補 加藤薫「遭難」」に詳しく書いてある.初出 オール讀物 1970年1月号の目次には
「昭和31年の正月厳冬の北ア鹿島槍の雪嶺に消えた学習院大山岳部の今はなき仲間に捧げる悲痛慟哭の鎮魂賦」
というキャッチフレーズがあったそうだ.著者・加藤氏は実にこの遭難の生き残りのひとりであった.
ただし,小説では山の名前も大学の名前も伏せてある.

16トンの読後感は,加藤作品はミステリではなく (ふつうの) ケレン味のない小説というもの.小説より上記の川口さんのブログのほうが衝撃だった.
登場人物,特に急進派の性格があまりに類型的.
痩せてしなやかな肢体の持ち主だった唯一の女子学生 (現実の遭難パーティには不在) がラストで鈍重に太ってこども連れで登場するところが皮肉っぽい.
テントの中でラジオから天気図を描く場面がある.この係の理工系学生が鉛筆を尖らせないと気が済まないあたりは,モデルがいたと思わせる.実は16トンも天気図を描くのが好きだった... 
寝坊して天気図を書かなかったために悪天候を予想できなかったことが,遭難の原因のひとつとされている.天気図にこだわるのが学生のあさはかなところ.気象通報より頻繁に放送される,ニュースのあとの天気予報を聞けば,おおよそのことは分かったのに...

直木賞候補作だったそうだが,ある程度山好きでないとこの小説は評価できないだろう,と思ったらネットに審査員たちの選評も残っていた.この第63回(1970年上半期)の受賞作は結城昌治「軍旗はためく下に」渡辺淳一「光と影」であった.やはり受賞作には敵わなかったと思う.

本書の最後には
「加藤薫氏の著作権継承者のご消息をご存知の方は,編集部までご連絡いただきたくお願いいたします」
とあった.

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