福武書店 (1988/10).
装画 有馬忠士.著者 色川のあとがきによれば,有馬は有能な飾り職人だったが,幻聴・幻覚に苦しめられ病院生活を余儀なくされた.他人に見せることはなかったが 500 点もの絵を遺した.これらの作品が色川が「狂人日記」を書くきっかけを作った.有馬の作品数点が aucfan HP に出ている.
装丁は菊地信義.
色川については,ぼくは雑誌「話の特集」で識ってはいたが,Wikipedia に詳しい記述がある.著者自身がナルコレプシー患者で,幻視・幻聴・幻覚に悩まされていたとのことで,この小説にも自身の症状が投影されているのだろう.
帯には当時朝日新聞で文芸時評を担当していた富岡多恵子の文章 (1988/6/28 夕刊) がある.
****色川氏の小説は『狂人日記』という題からしてもわかるように、その内容は軽くほがらかなものではない。しかし短いとはいえないその小説を読み進むことは苦痛ではなく、生の奥を舌で味わう気がする。言葉を読むことで虚構の内臓へ手がとどく。つまりその言葉を読んでゆくことでしか得られぬ悦楽があり、記録でも報告でも論文でもない、『小説』というものを読みたいと思ってきたのはそれ故だった。*****
とりとめのない日記を想像して読み始めたが,小説としてのストーリーにうまく絡め取られた.主人公の幼少期の弟との関係,一家離散を宣言する父親,バイバイと言って男と出て行く母親,自作のカードによるひとり遊び,女性体験などが伏線で,病院で巡り合った女性患者との関係に収束して行く.
現実場面と幻覚場面がないまぜに現れるが,読んでいて混同することはない.ぼくなんかも これは夢と承知しながら夢を見ているが,主人公も,大声を上げたりするとしても,どこかで幻覚は幻覚と承知しているらしい.
この本を読みかけて寝入ったらおかしな夢をみてしまった.
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