【社説・10.21】:2024衆院選・社会保障 負担と給付の議論尽くせ
『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【社説・10.21】:2024衆院選・社会保障 負担と給付の議論尽くせ
社会保障制度は、私たちの暮らしを支える基本的な仕組みだ。年金、医療、介護、子育てなど関心の高いテーマばかりなのに、今回の衆院選で踏み込んだ議論がほとんど聞こえてこない。
少子高齢化に伴い、社会保障負担率は1990年度の10・6%から24年度には18・4%に増えた。税を含めた国民負担率は50%近い。「江戸時代の年貢と変わらない」という国民のため息に、政治は真剣に向き合うべきだ。
負担増は今後、ますます迫られる。国民の審判を受ける選挙で詳しく触れるのは得策でない―。各党がそう考えているとすれば不誠実過ぎる。
自民党は、岸田政権で示した、年齢ではなく能力に応じて負担する「全世代型社会保障」を推進している。今回の衆院選では、窓口負担が3割となる後期高齢者の対象を広げる検討を進めるという。
立憲民主党も高所得者の負担増を強調したほか、日本維新の会は高齢者医療費の負担を原則3割に引き上げるとした。国民民主党は金融資産などを加味した負担割合に言及している。
各党が高齢者の負担増に触れたことは理解はできる。ただ「タブー視」されてきた高齢者負担に踏み込んだというより、そこからも徴収しなくては制度がもはや維持できないということではないか。
24年度の社会保障給付費は約137兆円。内訳は年金に約61兆円、医療に約42兆円、介護に約13兆円、子ども・子育てに約10兆円である。国の負担は約37兆円で、税収の半分以上が費やされる計算だ。
今でも政府も国民も負担は限界に近いだろう。加えて40年度には人口の約35%が高齢者になる。さらなる保険料上昇を抑えるために給付内容にめりはりをつけ、思い切った削減も視野に入れるべきだ。
社会保障制度をいかに立て直していくか。各党は、より具体的な方策を議論してもらいたい。医療だけでなく、年金や介護、子育てなども状況は同じである。
その前提として、国民の権利と義務を明確にすることが欠かせない。日本の社会保障制度は租税制度と複雑に絡み合って、ほとんどの国民が理解困難なものになっている。
政府は、40年以上も保険料財源の拠出を通じた安易な財源調整を続けてきた。健康保険組合は、自分たちの給付に充てられるはずの保険料を他の制度の拠出金として吸い上げられている。そのために財政が悪化し、解散にまで追い込まれる健保が相次いでいる現状は見過ごせない。
岸田内閣が創設した子ども・子育て支援金も、公的医療保険に上乗せして国民や企業から集める。本来は税で対応すべきなのに、増税批判をかわすために支援金として社会保険料から徴収する手法は改めるべきだろう。
社会保障制度は、被保険者である国民の納得と信頼がなくては立ちゆかない。そのためには税制と複雑に絡み合った制度を簡素化し、負担と給付の関係を透明化することが必要だ。衆院選でその議論を尽くしてもらいたい。
元稿:中國新聞社 朝刊 主要ニュース 社説・解説・コラム 【社説】 2024年10月21日 07:00:00 これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。