批判の高まりを受けて政治資金規正法が改正されたが、自民は改革に後ろ向きで、多くの抜け道が残された。
数の力を頼みとして異論に耳を傾けない姿勢は、安倍政権時代に極まった。国論を二分した安全保障関連法の制定をはじめ、国会を軽視する独善的な政権運営が目についた。
森友・加計両学園問題などの疑惑が表面化し、安倍氏の死去後には、世界平和統一家庭連合(旧統一教会)との深い関わりも明るみに出た。
岸田文雄前首相は当初、「丁寧で寛容な政治」を掲げて軌道修正を図ろうとしたが、アベノミクスの継続など「安倍路線」に回帰した。だが、裏金問題で追い込まれて退陣した。
後任の石破氏は党内野党的な立場だったことから、自民政治の旧弊を改めることが期待された。
にもかかわらず、国会で予算委員会を開かず、十分に議論する場を設けないまま衆院を解散した。支持率が高いうちに選挙を乗り切ろうとする党利党略に走った。
「政治とカネ」の問題でも消極的な姿勢が目立った。裏金に関与した前職らの一部を非公認としたものの、大半は公認した。非公認候補が代表を務める党支部に政党交付金から2000万円を支給していたことも発覚した。
自民はこれまで、表紙をすげ替えて刷新感をアピールすることで危機を乗り越えてきたが、今回はそうした「疑似政権交代」にさえ当たらないと、国民から見透かされたのではないか。
野党第1党の立憲民主党が躍進したのは、反自民の民意の受け皿となったからだろう。
◆与野党伯仲で緊張感を
立憲は安定感を重視し、旧民主党時代の首相経験者である野田佳彦氏が代表に就任した。従来の支持層であるリベラル系だけでなく、中道や保守層の支持獲得も狙う現実路線を打ち出した。
「政権交代こそ、最大の政治改革」とのスローガンを掲げ、「政治とカネ」の問題を争点に据える戦術が奏功した。自民の敵失に助けられた面は否めないが、国会での存在感の高まりに見合った責任を果たすべきだ。
今回の総選挙では、暮らしの不安を解消する議論は深まらなかった。各党の物価高対策は具体性を欠いたままだ。
自民や立憲は最低賃金の引き上げや給付の拡充に言及したが、中小企業の生産性を高める方策や財源の裏付けは明確ではない。社会保障制度の持続性を高める道筋も示されなかった。
11月の米大統領選の結果が国際情勢に及ぼす影響は見通せず、外交・安保戦略も問われる。
課題が山積する中、求められているのは政治の機能回復である。
12年衆院選から続いてきた「自民1強」の構図が一変し、与野党伯仲の状況が生まれる公算が大きい。緊張感のある国会を求める民意の表れだろう。
自民は独善的な振る舞いを改めて野党の意見に耳を傾ける。野党は監視機能を果たしつつ、実効性ある対案を示す。そうすれば国会論戦が活発化するはずだ。
政治への信頼を回復し、国民の不安を取り除く。それこそが与野党に課せられた責務である。